第51話 商人アスラン

 「お待たせしました。私が商会主のアスランです。オルバからの手紙は読ませてもらいましたよ。ダイチ殿。」


 この商会の主人を名乗る50歳位の痩せた男が商談室に入ってきた。


 アスラン商会に着いて、俺は店の者にオルバからの紹介状を渡して、アスランに面会を求めたのだ。


 「突然訪ねてすみません。旅の行商人をやっているダイチです。こっちは家族のコロンとイースです。」


 「ほう、家族、ですか。」


 「そうです。家族ですよ。」


 俺が家族だと言ったら家族なんだよ。文句あっか?オラぁ!と心の中で叫んでみる。


 「はははっ、気に障りましたら許して下さいよ。珍しい組み合わせだったもので。

 さて、オルバからの手紙では、私どもと取引き頂けると。」


 「ああ、まずは商品を見てくれ。」


 心の中の思いとは別に、笑顔で話せる俺は大人だ!うんうん!


 バックパックから塩の入った麻袋を1つ取り出して、アスランの前のテーブルに置いた。


 アスランは黙って麻袋を開けて、中の塩を手に取って品質を確認しだした。


 「ほう、素晴らしい品質ですな。王室御用達の塩でも、これほどの品質はございませんよ。」


 アスランはじっと俺の顔を見つめている。


 「それゆえに、危い。」


 「危いと?」


 意外なセリフに聞き返した。

 オルバからはアスランならきっと二つ返事で、俺の塩をいくらでも引き取ってくれるだろうと言われてたんだが。


 「はっはっはっ!オルバの小僧っ子でしたら、きっと私が喜んでダイチ殿の塩を買い取ると読んだことでしょうな。

 もちろん、喜んで購入させていただきます。

 ですが、その先も読まないと目端の利いた商人とは言えませんな。」


 「どう言うことか、伺っても?」


 「もちろんですとも。」


 アスランはテーブルの上のハーブティーを一口飲んでから続けた。


 「ご存じかと思いますが、現在カムランを含めたこの国の東域全体で塩が不足しております。」


 俺はだまって頷いた。


「我が国は西を嵐の海に面しておりますので、塩の生産には不自由しません。

 以前は王家の専売でしたが、今は自由に取引されております。


 ですが、今現在このカムランを中心に塩が不足しているのですよ。」


 「生産地の天候が不順だとか?」


 「いえ、それはありません。

 そんな状況下で、これほど高品質な塩が流通したらどうなりますか?」


 「値段と量しだいだが、既存の塩を駆逐できるか・・・」


 「ほう、御明察です。」


 アスランは嬉しそうに微笑んだ。


 「なので、これは私からの提案となります。


 この塩を1月に4袋だけ、私の商会限定で卸して頂くというのは如何でしょうか?


 王室御用達の最上級の塩は、この1袋で銀貨3枚ほどの値段で取引されております。

 それを私は1袋銀貨7枚でお引き受けしましょう。


 それを私はこの街のごく限られた方だけに販売して、一般には販売いたしません。


 もちろん仕入れ元のダイチ殿の名は、一切明かしません。」


 アスランのオファーを検討した。


 「仕入れ量を限定し、販売先も限定すれば、この塩の価値は高値で安定する。そうすれば普通の塩と差別化できると。

 その為の独占取引きか・・・」


 アスランは我が意を得たりと頷いた。


 「複数の商会に大量に販売すれば、やがては値崩れしますが、現行の塩のシェアを徐々に奪って行くでしょう。

 それに比例して、既得権益を持っている方々と衝突するリスクが高くなります。」


 「長く取引きするには、それが良いか・・・。

 ん?それなら今、この国の東域だけが塩不足になっていると言うのは、その既得権益を持っている誰かを・・・」


 「ダイチ殿!」


 アスランが厳しい声で俺を制した。

 彼の目が鋭く光っている。


 「ダイチ殿。塩の権益は莫大なものです。ですから、明らかな証拠もなしに滅多なことを口になさらないよう。」


 その後俺は塩4袋と砂糖2袋をアスランに卸した。

 砂糖は塩以上にアスランに歓ばれ、これもアスラン商会に独占販売する約束を取り交わした。


 どうせオルバから伝わるのだろうから、アスランに偽装は必要ないと思い、アスランの目の前でゴンのインベントリから砂糖の袋を取り出したのだが、それがまずかった。


 ゴンの子供は是非自分に売ってくれとアスランに泣いて頼まれたんだ。

 やれやれ、オルバといい根っからの商人ときたら・・・。




 





 

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