もう一つのめぐりあい

第20話 師と弟子と

今週も週末2話投稿はいりまーす!


まずは、新展開からです!

それではどうぞ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



◇◆◇


 険しい峡谷の深く切り立った岩壁に沿って作られた狭い桟道さんどうに、激しい雷雨が打ち付けられている。


 悪天候の中、死と隣り合わせの危険な桟道を麓へ向かって降りてゆく人影が二つあった。


 二人とも灰色のマントを羽織り、フードを深く被っている為、性別を見分ける事はできないが、前を進む者は雨に濡れて滑りやすくなった桟道を気にする様子もなく、まるで平地を進むかの如く歩いている。

 一方大きな荷物を背負った従者は、余りに危険な道に腰が引けていた。


 その時、対岸の岩壁に落ちた雷が、岩壁のクラックを伝って遥か下の沢まで駆け降りて行った。


 「・・・」


 後方の従者が立ち止まってその様子を茫然と眺めている。


 「危ない!」


 先行していた者が鋭く警告を発して、従者の腕を取って素早く体を入れ替え、庇うようにして後ろに下がった。


 その時、先ほどまで従者が立っていた所に、崖の上から黒い獣の影が滑り落ちて来た。


 獣の影は、音も立てずに桟道の板に降りると、ゆっくりと体を起こした。

 それは獣ではなく、鋼のような分厚い筋肉を鎧のように身に纏った、眼光の鋭い巨漢の男であった。


 「ご壮健のようで・・・師よ。」


 地の底から響いてくるような低く太い声には、一切の感情は伺えなかった。

 

 「久方ぶりであるな、バウドよ。いや、今は武皇バウド・ムスと名乗っておったな。中々出世したようで、としては嬉しいぞ。」


 師と呼ばれた男は、ゆっくりとマントのフードをまくりながらそう言った。

 フードから現れた男は年老いており、白い総髪と綺麗に切り揃えられた髭が激しい雨に打たれて濡れた。

 その顔に深く刻まれた皺は、その老人の人生を物語っているようだ。


 「望まねど、演じなければならぬ事もあれば。」


 ネコ科の獣の優美な足取りで桟道を進み、黒髪の巨漢バウドは師と呼んだ総髪の老人と対峙した。

 

 「それにしては、古の彼の言葉で偉大なという意味を表す“ムス“まで名乗るのは、ちとやり過ぎではないかな?バウドよ。」


 バウドはそれを無視して、師が庇っている者に鋭い眼光を向けた。

 気の弱い者なら、気を失ってしまいそうな闘気を纏った眼光だった。


 「ニセモノか・・・。どうやら師の策に嵌ったのだな。」


 「そう易々と“宝“を渡す訳にはいかんのでな。まあ、許せよ。」


 二人の間の空気が一瞬で変わった。


 「は必ず俺が手に入れる。だが、その前にそろそろ師の“剣聖“位を譲り受けるとしよう。今この場で!」


 「まだ主にこの看板はちと早いかの・・・」

 

 ゴロゴロドガ―――ン!頭上で雷光が走った!


 バウドとその師は同時に抜き手も見せず腰の剣を抜き、相手に絶死の闘気を纏った斬撃を放った。


 ガキィ――ン!ガキィ――ン!ガキィ――ン!ガキィ――ン!


 二人の間で剣閃が連続して煌めき火花が飛び散るが、二人の剣を目で追う事は出来ない。


 「ふん!」


 バウドが大上段に両手持ちの大剣を構え、更に闘気を練り上げた。

 一方師と呼ばれた男は、凪の水面の如く静かに剣を横に構えた。


 「うおおおおお――!」


 バウドの裂ぱくの気合と共に大剣が振り下ろさし、それを師の銀閃が迎え撃った!


 ドガ―――ン!


 二人の剣が交差した瞬間、強烈な衝撃波が岩壁と桟道を破壊した。


 「・・・!」「おっと!」


 バウドとその師は桟道が崩れた瞬間、お互いに後ろに跳躍した。

 

 「うわ――!たっ、助けて――!」


 崩れ落ちる桟道に巻き込まれて、荷物を背負った従者が落ちていく。


 「ふん!」


 老人は気合と共に、落下した同行人に向かって桟道を飛び降りて行った。


 バウドは無事だった桟道の板の上に立ち尽くし、ただ霧で見ることの出来ない谷底を見つめていた。


 激しい雨がバウドの身体に打ち付けられている。

 





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