第5話 ひとりぼっちのコロン
◇◆◇コロン
「かあさま、さあ今日もお花を摘んできましたよ。かあさまが好きだったお花です。」
大きな耳と立派な尻尾を持った狐人族の少女は、石を置いただけの質素な墓に自分が摘んできた花を供えた。
墓前に跪いて一心に祈っている少女はとても痩せていた。
「かあさまがいなくなってからどれくらい経ったのかしら・・・。
凍てつく冬が去って、穏やかな春ももうお終いかしらね。
今はもう、かあさまの好きだったミシャナの花の季節よ・・・。」
少女が祈っていると、森からリスや小鳥やキツネ等様々な動物たちが、食べ頃の木の実や熟れたベリーをそれぞれ咥えて少女の元に集まって来た。
動物たちは少女のひざ元に持ってきた食べ物を置いて、少し後ろに下がってから大人しく腰を下ろしている。
「まあ、あなたたちまた食べ物を持って来てくれたの?こんなにたくさん・・。
でも・・ねえ、自分の分はしっかり食べてる?あなたたちの子はひもじい思いしてない?」
自分たちの心配をする少女の話を真剣な眼差しで聞いた動物たちは、『大丈夫だよ』と言うように頭を振ってそれぞれ少女に答えた。
すると一匹のキツネが進み出て、少女の膝元に置いた食べ物をそっと鼻で押して『お食べ』と少女に促した。
「みんな、ありがとう。いただくわ。」
少女は周りに集まった動物たちに礼を言うと、ひざ元の食べ物を手に取って食べ始めた。
動物たちは満足そうに少女が食べるのを見ている。
巨大樹に守られる様に囲まれた小さな泉の畔。
巨大樹の落ち枝で作られた粗末な小屋と、耕作放棄された小さな畑。
そこが生まれた村から石もて追われた狐人の母娘がやっとたどり着いた、二人身を寄せ合える安息の地であり、終焉の地だった・・・
「ホブラ小父さんたち、今ごろ無事にカムランの街に辿り着けたかしら?
ミウちゃん可愛かったね。かあさま。
コロンおねちゃ、コロンおねちゃって懐いてくれて。ふふっ。
どうか私たちの分も幸せになって欲しいな〜。」
コロンは自分たち母娘と一緒に村を追われた羊人族の家族の事を思い出して微笑んでいた。
小さな小さな幸せの思い出だけが、今のコロンの支えになっていたのであった。
コロンはゆっくりと母の墓前を立ち上がり、巨大樹の森へ重い足を運んでいった。
「さあ、お前たちも森へおかえり。自分の暮らしに戻るのよ。」
ロコンは自分の周りに集まった動物たちに森へ戻るよう優しく促した。
この広大な巨大樹の森で、幼い少女がたった一人で生きてこられたのは、これら動物たちのおかげだった。
母親を亡くした寒い冬が終わる頃、コロンは母親と蓄えていた食糧や塩を食べ尽くしてしまった。
しかし、冬が終わり芽吹きの季節を迎えコロンが途方に暮れていると、森の動物たちがコロンの元へ食べ物を持ってくるようになったのだ。
そしてコロンも日々を生き延びる為に、森の中へ採取に入って行った。
そんなコロンの周りには、必ず動物たちがやってきて、コロンを守るかのようにコロンと一緒に森を進んで行くのであった。
▽▽▽
♪・・・コンコン子ギツネ なにゆえ 歌う~
かか様 尻尾が 揺れるから~ 揺れるから~
コンコン子ギツネ なにゆえ 笑う~
とと様 お髭が 焦げたから~ 焦げたから~
コンコン子ギツネ なにゆえ 眠る〜
兄様 たくさん 遊んだから〜 遊んだから〜・・・♪
巨大樹の木々の間、透明なコロンの歌声が響いていた。
まるで我が子に子守唄を歌って聞かせるような優しい歌声だ。
この歌は、コロンがずっとずっと小さかった頃、父の打つ鍛治槌の音を遠くに聞きながら、暖炉で抱っこされたコロンに、母親が優しく歌ってくれた大好きな歌。母の子守唄・・・
母の優しい香りと、暖炉のシチューの匂いがコロンの胸をぽかぽかさせた。
質素だが頑丈な家と、力強い父の気配がコロンを安らぎの眠りに誘った。
この森で母の歌を歌っていると、母の温もりとシチューの香りが蘇ってきた。
父がそばで守ってくれているような気持ちになった。
コロンは歌と共に蘇る、ぽかぽかした幸せな気持ちを動物達に与えたかった。
ひとりぼっちになって、辛くて悲しくて寂さに負けそうだった自分に優しく寄り添ってくれた仲間たちに、自分が与えてあげられるたった一つのことだったから。
コロンは動物たちと森を歩きまわって、薪を拾ったり、食べられる野草や根菜を採取してまわった。
疲れてくると、小鳥たちのおしゃべりがコロンに気を紛らわせてくれた。
賢いイタチが珍しい花を摘んできて、コロンを慰めてくれた。
そんなコロンと動物たちのまわりは、いつも温かな友愛の心情と妖精の祝福でキラキラ満たされていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
筆者の大好きケモ耳少女です!
定番の狼系にするか猫系にするか悩みましたが、本作のヒロインはキツネにしました!(^-^)v
皆様にも可愛がって頂けたら、とっても幸せです!
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