第106話 理解出来ない敗北 カイトside

この天井を見上げるのは何回目だろうか?

まだそこまで多くないはずなのに、今はとても長くいた様な感覚にとらわれる。


「保健室…か」


体を動かそうとするが、激痛が走り動けなくなる、特に両腕の繋ぎ目部分(脇の所)がとてつもなく痛い


「…え?」


痛みはあるが頭は動かせるので、ないはずの腕を見て驚く、エイトとミュウに切断され

大量に血が出てた筈だ、それなのに何故?


「カイト君!目が覚めたのね!」


隣で看病をしてくれていたのだろう

椅子に座ってうたた寝していたメグミが目を覚まして、カイトに声をかける。


「ああ、あの後どうなったんだ?」


「…エイトの不正行為で、カイト君は負けたわ。」


「やっぱり」


実際は不正行為もしておらず、ただ実力で負けただけなのだが、カイトこそ正義であり、絶対である彼女達からすれば、負ける事こそがあり得ないのだ。


だからこそ、約束も言ったことも無視して平気でそんな事が言えるのだ。


「と言う事はあの時か?」


「ええ、おそらく」


あの時と言うのはカイトがエイトとミュウの逆鱗に触れ完全にキレた時の事だ

あの時の2人は前世と今世の怒りをぶつけていた為、カイトに対して容赦なく攻撃出来たのだ。


例え憎しみがあろうとも、人間の体を切断したりするのは相当な覚悟が必要だ

人を殺すと言うのはそう簡単に出来るものではない。


「でも、なんで負けたんだ?不正行為したとしても、君達が見逃すはずはないだろ?」


「うん、私達は常に目で見て、耳で聞いて、魔法でも調べていたわ、けど何一つ見つけられなかったの。」


「僕はあの時よりも強くなった、もはや最強と言っても過言ではないほどに、なのに力でも負けた。」


更に言えば彼女達はバフ魔法をかけてカイトを更に強くしていた

エイト達も気づいていたが、その程度負けるとは思っていなかった為言わなかったのだ。


「学園長がグルなのかもね。」


「やっぱり、そう思うか?」


「当たり前よ、私達に対してあんな酷い事をして、今度は審判よ?絶対にエイト達に有利な事をしたに違いないわ。」


「確かに、あの学園長なら、僕達が気づけない不正行為をエイト達にしたかもしれない。」


全くの見当違いだが、実力で負けたと微塵も思っていない彼等にとって

その考えが1番信憑性が高いのだ。


「それじゃあ、私達が言ってくるわ、カイト君はここで休んでて。」


「いや、僕も行くよ、当事者が行かないのは示しがつかないよ。」


「でも、その体じゃ無理よ、それにその腕だってまだ完璧じゃないんだから。」


「それなんだけど、これメグミがやってくれたのかい?」


カイトはミュウに逸物を踏みつけられて

その痛みに悶絶しながら気絶していた為、この腕を直した者を知らないのだ。


「私じゃないわ」


「それじゃあ、アイかサユリ、それとも先生達か?」


「いいえ、直したのはミュウよ」


「え?ミュウ!?」


「ええ、私達がカイト君の所に来た時には既にミュウが貴方の腕を直していたわ。」


実際にはエイトとミュウの2人だが

メグミ達の目にはミュウしか見えていなかったのだ。


それ故にエイト達が恐れていた事が起こる


「ミュウは洗脳されてもなお、僕を助けようとしてくれたのか。」


「きっと今でも争っているんのよ、カイト君の為に。」


「くそ!ミュウが頑張っているのに…僕は…っ!!!」


「これで、エイトは自分が正義だと思い込んで、余計助け難くなったわねっ」


カイト達の頭の中ではミュウは魔王に連れ攫われたお姫様で、カイトはそれを助けに行く

勇者とその仲間達だ(因みに魔王はエイト)。


今ミュウ姫(笑)は魔王エイト(草)に洗脳され勇者カイト(w)達に牙を向けている

悲劇のヒロインになっているのだ。


「兎に角、今はその傷を治すのに専念して、学園長は私達がなんとかするから。」


「わかった、頼んだよ。」


そう言ってメグミは保健室から出て仲間達と共に学園長室に向かっていった。


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ちなみに逸物は完璧には治っておらず

麻酔によって痛みがないがミュウがこっそりと塩(汗)と水(黄金の水)をかけている


エイトが止めてなければ、もっとやっていた。



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