第3話 意外と饒舌(じょうぜつ)な彼女
「粗茶です…」コト…
そう言ってエイトはミュウとシルフィにお茶を出す
「ありがと♪」ずずぅ
「…ミュウ様はしたないですよ…」ハァ
そう言ってため息をこぼすシルフィだが
エイトが出したお茶を飲もうとして
頭を捻らす
「…紅茶ではないのですね。」
「え?ええ、この国に訪れた商人が安く売っていたので買ったんです。」
カルデア王国は世界に誇る大国の一つであり
そのお陰が様々な国の品物が数多く揃う
エイトが出したお茶もその一つだ
「…粗茶っと言うのですか?これは?」
「ブフッ」ゴボッ
さっきまで美味しそうに飲んでいたミュウは
その言葉に動揺して吹く
「ミュウ様!?大丈夫ですか!?」
「だ…大丈夫よ…ただちょっとむせただけ…」ゲホゲホ
「…タオルをどうぞ。」
エイトはミュウにタオルを渡し、零したお茶を拭く
(…てか、ミュウ…だっけか?滅茶苦茶喋るな)
学園内で彼女を見た事は何回かあるが
(そもそも同じクラスだし)
いい、うん、やる、やらない
等一言で済ます事が多く、二言以上言うのは
多くと言ったが聞いた事がない
それに…彼女の隣にいるシルフィとか言う人とは同じクラスだがミュウと話している姿を見た事がなく、ここまで仲が良いなんて初めて知った
「えーとシルフィ…さん?」
「シルフィでいいですよ?エイトさん」
「ではシルフィ…粗茶っていうのは」
粗末な茶。茶を人にすすめるときにへりくだっていう語。「―ですが一服どうぞ」
「と言う意味でこれは緑茶と言う飲み物です。」
そう説明すると顔を赤くして恥ずかしそうに
俯く
「シルフィって完璧に見えるけど、所々ポンコツなのよねぇ。」
「うるさいですよ?ミュウ様。」
「はいはい」
「………」
「…はい」
(本当に仲良いんだなぁ)
まるで昔からの友人の様に話す姿は
学園内での光景を否定するかの様だ
「…所で」
お茶を飲み干したミュウが部屋の周りを確認して、エイトに尋ねる
「他の人達も住んでる様に見えるけど、両親とかはどうしたの?」
「両親は共働きでほとんど家にいないです、義理の姉と妹と3人で暮らしています。」
「へぇ、ハーレムじゃん。」
「あんな奴と一緒にするなよ。」
「あ、ごめん、でもさぁ姉妹と暮らしてるんでしょ?仲良くないの?」
「アンタのとこのハーレム野郎に掌返しだよ。」
「あの無神経に惚れるとかないわぁ。」
「何処のハーレム主人公だよ。」
「ご都合展開ご馳走様です~」
「…お二人共、仲がよろしい様ですが、話したのは今日が初めてですよね?」
シルフィに言われて2人はハッと気づく
「す…すすすすいません!失礼なことを言ってしまって!!!」土下座
「い…いえ!気にしないでください!私も何故かああなってしまったものですから…」
エイトもミュウも話すのは今日が初めてだ、同じクラスになったとはいえ、ミュウはあのハーレム主人公様の幼馴染み、下手に手を出せば面倒くさい事になるので、関わってこなかったのだ
(でも、なんだろう、この感覚)
先程ミュウと話していた時は、素の自分がでていたと言うよりも、親友などに対する様な話し方だった
(…不思議ねぇ)
しかし、それがなんなのかはわからないし、これについて詳しく聞こうとしても意味がないだろう
そう思ったミュウはエイトに話しかける
「ねぇエイト」
「…あ、はい」
「さっき、義理の姉妹がいるって言ってたじゃん、今何処にいるの?」
ミュウの言葉で現実世界に戻され先程答えた質問をもう一度する
「今、カイト達と一緒に水着を買いに行ってると思うよ?ミュウさん。」
「私もミュウでいいわよ、エイトって私も呼ぶし。」
「わかった…ミュウ、お前も聞かれただろ?カイトに。」
「…ああ、あれね。」
そう言って、ミュウは納得する
「今頃、カイトに自分の水着姿を見せている頃だと思う。」
そうなっていることを想像すると、頭がおかしくなりそうだった
義理の姉妹も幼馴染みも皆んなカイトのところへ行った
嫉妬していないと言えば嘘になる
だけど嫉妬したところで何かが変わるわけではない、自分が出来なかったことを彼は平気でやってのける
まさにハーレム主人公って感じだ
最近では3人共自分に対する当たりが強くなっている事は自覚している
同じ家に住んでいるのに会話すらしていない
アイは自分を蔑ろにするし
メグミは存在すら認識していない
幼馴染みもそうだ、つい最近までは一緒に夕食を食べる仲だった、家が隣という理由もあったがそれもなくなった
3人共カイトの家には入り浸って夕食もご馳走になってる(帰りが遅くて問い詰めたらそう言われた)し、最近はずっと1人だ
「ま、そんな感じで兄妹仲は結構悪いよ。」
先程思った事をミュウ達に必要な部分だけ話たら、2人とも静かになってしまった
(あ、やべ)
2人とも何故か申し訳なさそうに俯くので、慌てて弁解する
「き…気にしなくていいよ!別に気にはしてないから、まぁ寂しい気持ちはあるけど…」
「………」
「………」
さらに気を悪くしてしまったのか、先ほどから一言も話さないため、話を変える
「そ…そう言えばさぁ…2人はどんな関係なの?」
「え?」
「いやだって、2人が話している姿なんて…見た事ないから、こんなにも仲がいいなんて初めて知ったよ。」
別の国から来た事は知っているが、ここまで仲の良い2人だとは知らなかった
2人は顔を見合わせて、先ほどと打って変わり、クスリと笑う
「…確かに、説明していませんでしたね?」
「仕方ないと言えばそうかな?でもエイトには教えてもいいよね?」
「はい、別に構いませんよ」
そう言ってミュウはエイトに顔を向けて話し始める
「知ってるかどうかは知らないけど私…貴族の人間なの。」
それは知っている、カイトがミュウと話すときに、たまに口にこぼしていたためなんとなく覚えている
「んで、貴族の私が安全とは言えカルデア王国まで馬車で行かないといけない。」
道中には少なからず山賊や魔物がいる、それを貴族の娘がたった1人で行くなどありえない
「それで、私が行く事になったのです。」
「護衛として?」
「それもありますが、ミュウ様のお世話も任されております。」
成る程、だから女性なのか、男性だったら無理なこともあるだろうし
「それで、2人は仲が良いと?」
「まぁ小さい頃からずっと一緒だったからね、気心知れた相手なら知らない土地でもやっていけるだろうって。」
「へぇ、小さい頃からずっとねぇ、喧嘩とかしないの?」
「そりゃあするわよ、ずっとこんな感じじゃなかったよ。」
「お嬢様は大変面倒なお人なので、私もひどく困ったものです。」
「それ酷くない?」
「いいえ、普通です。」
「ぷふっ」
「あー!今笑った!酷い!」
「エイトさんグッジョブ♪」
「ちょ!?シルフィ!!」
2人の仲の良さに思わず笑ってしまった
こんなにも笑ったのはいつぶりだろうか…と思いながら………
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「んじゃ、お邪魔しました!」
「夜遅くまでありがとうございます」ぺこり
「別に構わないけど、気をつけてよ?」
「ご心配なく、私が責任持って持ち帰りますから。」
「私荷物扱い!?」
夜、2人がそろそろ帰ると言って玄関まで送る、本当は家までそうしたいが、シルフィがいるから大丈夫だと強く言われ、こんな形になっている
今日はまるで、夢の様な1日だった
不思議な事もあったが、こんなに楽しかったのは本当に久しぶりだ
そんな事を思いつつ、エイトはふと我に帰り
つぶやく
「ミュウって…滅茶苦茶喋るやん。」
普段からは考えられない程饒舌で、本当はこっちが素なんだろうと思いながら、家に戻る
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この日から、エイト•マクラレンの運命は大きく変わる事をまだ知る由もない
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