序章 ハーレム勇者

第1話 変わった日々

5月


ちゅんちゅんちゅんちゅん…


朝日がカーテンの間から入り込み

意識が徐々に覚醒する

ここはエイトの部屋

一軒家の2階の1つの部屋を彼が使っている


(…起きるか)


いつもなら義妹のアイが自分を起こしに来てくれるのだが、"アイツ"が来てからそれはなくなった


下に降りて居間に入る、昔…と言っても最近までは義姉のメグミが居間にいたが

今はアイと同様"アイツ"の所為でいない


(……朝食作るか)


両親は共働きで殆ど家に帰ってこない

なので料理や洗濯など家事全般はエイトが

1人でやっていた

(2人に任せたこともあるが、家が崩壊寸前になったのでエイトが全てやることになった)


「昼食は…いらないか。」


昼食は食費を浮かす為に作っていたが

姉妹の2人が自分の食事を拒む為

お金が馬鹿にならない


「俺1人じゃ意味ないんだよ、馬鹿共め。」


自分勝手な2人に殺意が湧くが、それと同時に何故自分の元を離れてしまったのかと言う虚しさが出てきて溜め息が溢れる


「………食べるか」


いつもなら3人で仲良く食べていたので、静かな空間が寂しく感じる

ちょっと前までは自分の周りには人がいたのに…と


食事を終わらせて、弁当を詰める

朝食の残りを容器に入れて、準備をする

2人が食べない分自分の食事になるので

少しは徳な気分になる(…虚しいが)


「…行ってきます」


親もいない為誰も答えてくれないし

自分と同じように言ってくれない


ドアを閉めて鍵をかける

彼女達が持っているかは知らないが

勝手に行く2人が悪い


「…やっぱりいないか。」


隣の家に住んでいる幼馴染みのサユリ

いつもなら、アイとメグミが自分の隣にいて

それに嫉妬するかのようにサユリも来るのだ


「…行くか」


1人学園に向かう、この寂しさもやはり慣れない


側から見ればハーレム状態だった彼は

それがとても心地よく、楽しかった


まるで物語の主人公の様な生活を送っていた彼だがとある"人物"によってそれは崩壊した


「…ハァ」


今ならリア充氏ねと言う男達の気持ちがよくわかる(まぁそうなってたので、なんとも言えないが)


時間はたっぷりあるのでのんびりと歩く

早く着いたところであまり意味はない

(と言うかない)


ここカルデア学園があるこの王国は

カルデア王国と呼ばれ

カルデア学園はこの国の名をもらったのだ


(他の人達も見えてきたな)


この時間帯になればこの辺りは学生達がいるのは当たり前だが、彼はサユリ達がいたので特に気にしなかったのだが、周りをよく見る様になり気づいたのだ


「てか、そう考えると恥ずかしいな。」


普通に言葉に出してしまったが

よくよく考えれば周りを見なさ過ぎだ

失恋…と言うか、寝取られ…と言うか


(そんな関係にすらなってないけど)


確かに彼女達に告白されたりもしたが

女の気持ちは変わりやすいとも言うし


(…言い訳だな)


彼女達の好意に甘えて告白をしなかった自分が悪い、それでも"アイツ"が憎くて堪らないが


(何も言えない自分に1番腹が立つ)


結局の所、自分が悪いのだ


——————————————————————

ここカルデア学園は全校生徒3000人を超える

それだけを学ばせることが出来るのは

他国との同盟等もそうだが治安の良さも理由の1つだろう


そうでもなければ、他国から来る人達が

なんの怪我もなくここまでこれるわけがない

いくら治安が良くても外には魔物がいる

勿論傭兵や騎士団達が護衛をしたり

その近辺を討伐していたりするが、領土問題や国交問題等があればそんな事はできない


そんな事をしなく済むのはカルデア王国とその他の国々との密接な関係のお蔭と言える


そんなカルデア学園には


初等部

中等部

高等部


の3つに分けられており、そこで各3年間ずつ学ぶのだ

その為


初等部3年、中等部1年、高等部2年等と

最後に学年を入れて呼ばれている


しかしそれだけだと見分けがつかない為

腕に腕章をつけているのだ

赤が初等部

緑が中等部

青が高等部

でその中に星⭐️が入っており

赤の腕章で星⭐️⭐️⭐️で初等部3年

と知ることが出来る


それならば服装で決めれば良いと言われているが、その他諸国には(地球で言う)宗教的な問題もあるため、無意味な摩擦を防ぐために

服装は自由になっている


因みにエイトは青の腕章に星が1つ⭐️

つまり高等部1年となる


——————————————————————

クラスは1つではなく複数ある

それもそのはず、1学年約300人いるのだ

一気に入れる教室などはなく、いくつかに

分かれて授業を受けている


エイトは偶然にもサユリ達と同じクラスなのだが…


………最悪にも"アイツ"も同じクラスなのだ

その為、毎朝会いたくない奴と見たくない

光景を見なければならないのだ


中等部、初等部の時はとても嬉しく、同じ

クラスなれた時は神に感謝した程だ

しかし今は同じクラスになった事も


"アイツ"も同じにクラスにした神に殺意が

芽生えた


(…入るか)


だからといって入らない訳にはいかない

勇気を持って中に入る


「皆んなくっつき過ぎだよ~」


「えー良いじゃなーい」


「ねぇねぇ、カイトお兄ちゃん、今度一緒に水着買いに行こうよう」


季節はまだ夏になっていないが、この時期にいつも買いに行っていた

(季節外れの方が安いから)


多分その癖が出たのだろう、アイはカイトが席に座っている事をいいことに膝の上にちょこんと座っていた(周りからは嫉妬の目もあるが…特に女子)


(…昔はあんな感じだったんだな)


アイは再婚した時に出来た義理の妹

幼い頃に兄妹になった為、まるで本当の兄妹

…いやそれ以上に互いに思いやっていた筈だ…


今見える光景が、ムカつくアイツの姿が昔の自分を彷彿とさせた


かつて懐いていた義理の妹アイは

今はカイトに懐き一生懸命に気を引こうとしていてその姿を見ると心が痛む


(本当にちょっと前まではああやって俺にもよく甘えてくれてたけど、…今は会話もほとんどしないし…)


寂しいと思うが口にしたところで

"気持ち悪い"

の一言で終わる


「いや、まだ夏にもなってないのに、水着を買うの?早いと思うんだけど。」


「そうかな?私はカイトお兄ちゃんに私の水着姿を見て欲しくて言ってるんだけど…」


そう言って妹キャラを演じながら、男の本能を刺激する姿に吐き気がする


「確かに僕もアイの水着姿は見たいなぁ。」


そう言ってカイトはアイの頭を撫でながら

笑う、アイも嬉しそうに笑っていた


周りの女の子達はズルいずるいと言いながら

ニコニコと笑っている、いつものことだ


まだ授業が始まっていない事をいいことに

クラスの真ん中でイチャイチャしている

元々席に指定がない為自由なのだが、あそこまでやられると周りの男子(少数で女子)もそうだが、不快感がある


アイは本来恥ずかしがり屋だから、本当はあんな風に目立つ様な事はしたくない筈だ

しかし、カイトが好きだから、人前だろうと関係なく、ああやって甘えているのだろう


(それを見ている、こっちの気にもなれ)


それを見ているのは酷く辛い

アイだけじゃない


「ならいいんじゃない?水着は夏に着れれば良いから見せるだけなら室内だし、寒くないよ。」


そう言ってカイトの腕に巻きつき

アイに負けないように牽制しているのは

義理の姉のメグミだ


「私も胸が大きくなったせいか、水着が合わなくて新しいのを買わないといけなくなっちゃったの…」


さらに胸をむにゅんと当てて顔を赤くする


「へ…へぇ…そそそそうなんだ…た…大変…だなぁ…」


カイトもなんとか答えるが、流石に女の子胸攻撃には勇者様も耐えられないようだ


「「「「「リア充滅ぶべし…氏ね」」」」」


周りの男達が一斉にカイトに向かって怨念を込めて放つ

この言葉を自分にではないことに心底安心する


————————————————————続く

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