第5話 吸引力

「えへへ、なんかお腹空いて来ちゃった」


コイカの腹が鳴り、彼女は照れ臭そうに笑う。

気づけば窓から差し込む日は大分傾いており、時間が夕食時だというのが分かった。


……何時間一人で喋ってんだよ、こいつは。


俺が召喚されたのは正午。

そして報告を終えてこの部屋に連れて来られるまで、1時間とかかっていない。

つまりコイカは数時間、独り言をブツブツ言っていた訳だ。

きんも。


「ギョッちゃんもお腹空いたよね?そういや、ギョッちゃんって何食べるの?」


言葉の通じない俺に聞いてどうする?


「取り敢えずお魚さんだから……苔とか虫とかかな?」


馬鹿め!

俺は爬虫類だ!

苔や虫など食う訳が……あ、いや、爬虫類は普通に虫食うんだったか。

草食もいた気がするし。


まあそんな事はどうでもい。

俺は神だ。

なので――


「ぎょぎょっぎょぎょぎょぎょぎょ!(神である俺は、お前ら地を這う虫けらの様に何か食する必要などない!)」


――食事など不要!


不眠不休でも揺るがぬ偉大なる神を称えよ!


「取り敢えず食堂にいこっか。学園の食堂には、召喚パートナー向けの食事メニューもいっぱいあるから。そこから好きなのを選んでね」


いやだから、俺は飯を食う必要はねーんだよ。


しょうがない。

言葉が駄目ならボディランゲージだ。


伝われ!

この思い!


俺はひれをパタパタさせて、その動きにメッセージを込めた。


「行こ、ぎょっちゃん」


が、当然伝わらない。

やれやれである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


コイカに連れられ、俺は学食へとやって来た。

仮にもここはエリート養成学校なので、内装は綺麗でかなり広い。


「ふふ、皆珍しそうにギョッちゃんの事見てるね」


この世界には空を飛ぶ魚がおらず、召喚なんかでも呼び出される事は無い。

そのため物珍しさから、自然と俺に好奇の視線が集まる。


不敬にも神である俺を無遠慮にじろじろ見やがって。

お前ら全員目玉抉ってやろうか?


「私は日替わりの丼にするね。ギョッちゃんはどれがいい?」


そんな俺の怒りなど露知らずと言わんばかりにコイカが丼を選び、笑顔で俺に何を食べるか聞いてくる。


無視してもいいのだが、一応初日なのでフレンドリーに対応しておいてやろう。

俺は両目から光を放ち――権能ではなく、単に魔力で起こした発光現象――その光であるメニューを照らした。


「わっ!凄い!ギョッちゃんそんな事できるんだ」


「ぎょぎょ!(称えよ!)」


因みに俺が選んだのはビーフシチューだ。

明日の朝、似た様な物をコイカに振る舞う予定なので、これでこの世界の味の確認をしておく――食事は不要だが、食べる事自体は出来る。


「おおー、凄い食べっぷりだね!ぎょっちゃん!」


コイカがテーブルに運んだビーフシチューを、俺は豪快に一気飲みする。

神鯉の吸引力をもってすればこれぐらいは余裕だ。


味は……点数をつけるなら、神界に生えてる道端の雑草を100点として、10点から15点位だな。

まあ雑草とは言っても、人間が食ったら100年ぐらい余裕で寿命が延びる霊草な訳だが。


下界だけの判定で言うなら、悪くないんじゃねってレベルの味かな。


「わ、私も負けないよ」


俺の壮大な雄姿に闘争心を掻き立てられたのか、コイカが負けじと自分の丼を勢いよく食べ始める。


……口に無理やり食い物を詰め込んで頬を膨らませる姿は、まるでハムスターだな。


無様極まりない姿である。

やはり食事は、俺の様に一息で吸引するのが尤もスマートだ。


「はぐっ!はぐっ!」


コイカが必死に食事を続ける。


しかし悲しいかな。

気概は買うが、所詮相手は小柄な小娘。

その速度などたかが知れている。


と言うか必至の割に、全然進んでいない。


コイツめっちゃ食うの遅いじゃねぇか。

何が負けないよ、だ。

大言壮語を吐きやがって。


「ぷはぁ……お腹いっぱいだよぉ」


丼一杯で10分……

いや、それ以前にそれだけで腹満タンとか。

強くなるためには、ガンガン飯食うのが基本だってのに。


紋章があるならそれもそこまで問題じゃないが、コイカは身体能力だけで強くなる必要がある。

そんな人間が小食なのは致命的だ。

どうやらドーピングは、その辺りも考慮して用意しないと駄目な様だな。


「ぎょぎょぎょぎょうっ!!(コイカ安心せよ!俺が見事な大ぐらいにしてやるからな!!)」

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コイの昇龍伝~俺は神龍になるため、異世界の落ちこぼれ少女を世界一に育てる! まんじ @11922960

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