第4話 独り言
理事長室を後にしたコイカは、俺を学生寮の自室へと連れて来た。
彼女の部屋は三階の角部屋。
サイズは合計30畳ほどで、リビングにキッチンと寝室という構成となっている。
部屋のあちこちに可愛らしいぬいぐるみが置いてある事から、無駄にメルヘンチックな性格をしている事が手に取る様に分かってしまう。
……戦いを生業にするエンブレマーを目指してるくせに、糞軟弱な趣向をしてやがるな。
「ここが私の部屋だよ!ぎょっちゃん!」
「ぎょぎょぎょぎょぎょ(誰がギョッちゃんだ!この糞雑魚ナメクジ!!テン・ショーリュー様と呼べい!!)」
「ふふふ、良い名前でしょ。今考えたの」
俺の魂の叫びが1ミリたりとも伝わりゃしねぇ。
つか、いい加減な名前を即興でつけんな。
せめて少しは無い知恵ふり絞って、もっといいのを付けろ。
こっちは幼体とは言え神様やぞ?
「ぎょっちゃん……」
それまで笑顔だったコイカが急に真面目な顔になったかと思うと、その場に膝を着いて正座する。
そして俺に向かって――
「私の所に来てくれて……本当にありがとうね」
――手を付いて深々と頭を下げた。
いわゆる土下座と言う奴である。
彼女なりに、心からの感謝の意を表しているつもりなのだろう。
そんなコイカに俺は優しく声をかける。
「ぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょっぎょぎょ!ぎょっっぎょぎょぎょぎょ!!!(頭が高い!土下座という物は頭を地面に打ち付け、首から先を地中に埋めて初めて土下座と言えるのだ!もう一度言おう!頭が高い!平伏せ愚物!!)」
と。
「えへへ。ありがとう」
俺の言葉に、コイカが何故か笑顔で頭を上げる。
いや何がありがとうなんだよ?
勝手に俺の言葉を自分にとって都合の良い物に変換して受け止めんじゃねぇ。
「ぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょ(もっと激しく頭を打ち付けろっつってんだ。早くやれや)」
「ギョッちゃんは優しいね」
駄目だ。
俺のアドバイスが微塵も伝わっていない。
はぁ……言葉が通じないのは本当に不便極まりないな。
円滑なコミュニケーションは言語のやり取りこそが至高だというのに、神様は本当に面倒くさい禁制を施してくれたものである。
「私実はね……」
コイカの自分が足りが始まる。
こちとら神ペディアで学習してるので、既に知っている事ばかりで欠伸が出そうになる。
と言うか寝た。
目を開けたまま。
これなら馬鹿な小娘は俺が寝ている事には気づきまい。
延々独り言でも呟いてろ。
糞雑魚。
「だから…だから……本当にありがとうね!」
コイカの大声で目を覚ます。
その顔は晴れやかだ。
きっと不遇な状況で色々抱えていて、どこかで吐き出したかったのだろう。
だから俺に聞いて貰えてスッキリ、とか思ってるんだろうが……
「ぎょぎょぎょーーーーーー!!(馬鹿め!寝てたからテメーの言葉など微塵も届いておらんわ!このウツケモノめ!!)」
「うん!こんなあたしだけどこれからよろしくね、ギョッちゃん!」
全くかみ合わない歯車。
ポジティブドリーマー、マジ厄介。
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