第3話 落ちこぼれ
「叔母様!成功しました!」
あの後、理事長に報告するという事で、俺はコイカに連れられ昇竜学園の理事長室に連れて来られている。
その道中、空を飛ぶ魚が珍しかったのだろうか、コイカと同じ制服を着た生徒っぽい奴らからじろじろと無遠慮な視線を受ける羽目に。
神獣である俺様に対して、正に不敬極まりない行動である。
不信人者である彼らはきっと、死後地獄に落ちる事だろう。
ま、地獄とかないけど。
「コイカ。学園では理事長と呼べと言っているでしょう」
タイトな赤いスーツを身に着けた、黒髪でメガネをかけたきつそうな顔の女性――理事長がコイカを叱る。
彼女の名はアマンダ・ミラー。
サウス王国に三つある侯爵家、ミラー侯爵家の出で、コイカの叔母に当たる人物だ。
ついでに言うと、この昇竜学園の理事長を務めている人物でもある。
空飛ぶ鯉である俺を見て全く動じる様子が無い当たり、中々の胆力の持ち主と見た。
「ごめんなさい、叔母……えっと、理事長先生。嬉しくってつい……」
叱られたコイカがシュンとなってしまう。
因みに、叱られはしたが、別に叔母であるアマンダと彼女の仲が悪い訳ではなかったりする。
寧ろ逆。
能力至上主義である名門ミラー侯爵家の中で無能扱いされていたコイカにとって、彼女こそが唯一拠り所と呼べる存在となっている程だ。
にもかかわらず今アマンダが厳しく接したのは、理事長という立場を重んじて公私をしっかり分けている為である。
え?
なんでそんなに詳しいのかって?
それは俺が神獣様だからだ!
ま、冗談はさておき。
事前に神ペディア――何でも載ってる万能情報機関――にアクセスして、俺はコイカの周りやこの世界の事を色々と調べておいたのだ。
そこそこ長い付き合いになる訳だからな。
其の辺りは抜かりなしである。
「ふふ、しょうがないわね。なんにせよ……召喚成功おめでとう、コイカ。ですが、パートナーの召喚は始まりに過ぎません。皆に追いつけるよう、これからも努力するのですよ」
「はい!」
「タニア先生。これからも彼女の指導をよろしくお願いします」
「勿論です。お任せください」
タニアと言うのは、ナイスバディの先生の名だ。
彼女はコイカのクラスを担当している教師である。
「理事長先生!私頑張って立派な
それは王国に仕え、魔物と戦う騎士達の事をさす言葉だった。
ぶっちゃけ、サウス王国の騎士になる為の水準レベルはそこまで高くはない。
なのでコイカの通うこの昇竜学園の生徒なら、卒業する頃には余裕で受かる程度だったりする。
ま……それは紋章があればの話ではあるが。
――コイカには紋章の力が無かった。
紋章とは、かつて神龍がこの世界の人間に与えた加護だ。
本来は全ての人間がこの力を有して生まれて来るのだが、何故か俺の召喚主であるコイカだけは紋章の加護無しで生まれてきている。
その理由は神ペディアにも乗っておらず、紋章のない彼女は世間からは紋章無しの落ちこぼれとみなされていた。
……普通に考えれば、紋章の加護を受けられなかったコイカがエンブレマーになれる可能性は0だ。
何せ紋章の力は、初期段階ですらその有無で大人と子供程の力をの差を生む。
そしてその差は、普通に努力した位で追いつける様な物ではない。
むしろ紋章の強化も加味すると、その差は開いて行くばかりだ。
コイカ自身も、それは嫌という程分かっている事だろう。
何せ今まで散々クラスメイト達に、その絶望的なまでの力の差を見せつけられ続けているのだから。
だが彼女はその上でなお、それでも頑張ると宣言している。
正にナイスガッツ。
そしてそう言う諦めの悪い人物だからこそ、俺のレベル上げのかも……じゃなかった、パートナーにピッタリと言える。
喜べコイカ。
神獣の俺が来た以上、お前はもう無能な落ちこぼれではなく超絶勝ち組だ。
強くなってお前を見下していた愚民どもを、力で蹂躙しつくすがいい。
グハハハハハ!
「精進しなさい」
コイカではエンブレマーになれない。
そのあたりはアマンダも十分承知していた。
だが彼女はコイカの姿勢を否定する事無く、努力する事を示唆する。
とか考えているのだろう。
だが俺から言わせれば、諦める事を知らない無能は悲惨だ。
いつまでも自分が特別であると信じ、いい年して厨二病を引きずるおっさんの如く。
そういう意味では、アマンダの判断は能天気としか言いようが無い。
本当に相手の事を思うのなら、諦める事を教えてやるべきである。
コイカはとんでもないハンデを背負っているのだから。
……ま、それはあくまでも俺が居なかった場合の話ではあるが。
「はい!頑張ります!」
アマンダの言葉に、コイカがとびっきりの笑顔で答えた。
その笑顔をそのうち――
「ぐははははは!平伏せ愚民ども!」
――的な、もっと尊大で素敵な笑顔に俺が変えてやるからな。
期待してろよ。
コイカ。
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