第2話 水など不要

「ぎょぎょぎょ!!(我は神獣なるぞ。無能な貴様を救ってやる、平伏すがいい愚物!!)」


「うん、よろしくね。魚さん」


俺は神獣で超偉いから平伏せと言ったのだが、どうも通じていない様だった。

人間の言語が話せないと、どうしてもコミュニケーションがネックになるな。


因みに、俺が言葉を話せないのは魚だからではない。


「お主は神の世界の事をペラペラしゃべりそうじゃからな」


というふざけた理由で、神様に封印ロックされてしまっているためだ。

お蔭で爬虫類なのに、「ギョ」としか言えない。

困ったものである。


ただこの措置は永遠ではなく、しばらく様子を見て大丈夫そうなら解除してくれるとの事。

まあ俺は品行方正なので、きっと直ぐに解除される事だろう。


「あっ、そうだ!お魚さんだから水がないと呼吸できないよね。お水……お水……ここにそんな物ないよう。どうしよう……先生、私どうしたら……」


「コイカ、落ち着いて。今すぐに用意してあげるから」


俺を魚類だと勘違いしたコイカが急に慌てだし、背後の女性――先生とやらに泣きつく。


だがその心配は無用である。


何故なら俺は爬虫類だから!

だから水が無くても問題なく呼吸は出来るのだ!


というか、そもそも神獣だから呼吸できない程度じゃ死なないしな。


「ぎょぎょ!(落ち着け無能!俺の偉大さの一端を見せてやろう)」


神獣である俺には、当然特殊な能力が備わっている。

そのうちの一つ。

神の権能を、まずは目の前の小娘に見せつけてやる事にする。


その名も――念動力テレキネシス


念動力テレキネシスとは、触れる事無く物質を動かす不思議パワー。

いわゆる神通力である。

遠くの物を動かしたり、自分自身を浮かせたり動かしたりも可能だ。


――俺はテレキネシスを使い、自身の体を台座から浮き上がらせた。


ドヤ顔で。


「わっ!お魚さんが浮いた!?」


それを見たコイカと、先生と呼ばれる女性が驚愕に目を見開く。

後ついでに、さっきまで悪口オフラインしていた後ろの男達もだ。


「ぎょぎょぎょぎょ!(これぞ偉大なる神獣の力よ!平伏せい!)」


「ふむ……空を飛べるのなら、水が無くても問題はないでしょうね」


「よかったー」


焦っていたコイカが俺に水が不要と分かり、胸に手を当て大きく息を吐いた。


ぺったんこ!

そう、ぺったんこだ!


まあどこがとは、敢えて言及はしないが。


「ぎょ!(当然だ!我を下等な魚類と一緒にして貰っては困る!)」


因みに、神鯉の能力は全部で八つある。


一つは、今見せたサイコキネシス。


二つ目は物質透過能力。

壁とか、それどころか、人間とか生物をすり抜けたりする事も可能となっている。


三つめは、錬神術。

これは錬金術なんかの、超凄い版と思って貰えばいいだろう。

薬品やポーションなんかは勿論の事、特殊な装備の錬成も可能だ。


しかも普通の錬金術などとは違い、素材も相当省略できる様になっている。

正に神の秘術。


四つ目は透明化だ。

単純に姿が消えるだけではなく、気配や音も完全にシャットアウトできる。

まだ幼体とは言え神である俺のスキルなので、通常の生物ではこれを見破る事は出来ない。


五つ目は収納。

俺のお腹の中には、無限の収納空間がある。

出し入れは基本、この愛らしいお口(ぱくぱく)。


因みに、吸い込む際は対象が俺の口に合わせたサイズになるので、どんな大きな物でも収納可能となっている。

その気になれば家なんかも余裕で吸い込めるぞ。

ワオスゴイ!


六つ目は、口から衝撃波である。

これは文字通り、口から衝撃波を飛ばして攻撃するという物だ。

そんだけ。


七つ目は跳ねる。

魚っぽい体をビタンビタンさせて、大きく飛び跳ねるスキルとなっている。


何それ?

とか思うかもしれないが、実はこれ、俺が龍に至るのには必須のスキルとなっていた。


レベルカンスト後、俺は神滝を遡上そじょうしなければならない。

それが出来て初めて、神鯉は神龍へと至る事が出来るのだ。


だが神滝の勢いは凄まじく、念動力程度のパワーでは到底登り切る事は出来ない様になっている。

そこで役に立つのがこの【跳ねる】だ。


一見、名前だけ見たら糞みたいに感じるスキルではあるが、その効果は凄まじいの一言。

今この場で使ったら建物を衝撃波で跡形も無く吹き飛ばし、俺の体は軽く大気圏を突破してしまう事になるだろう。

それ位強烈なスキルとなっている。


んで、最後の八つ目は改良。

生物の姿や性別を変更したり、種族を別の物に変えたりも可能だ。

悪用するととんでもない事が出来てしまうが、俺も幼体とは言え神獣だからな。

悪い事には使わない。


バレたら神様に大目玉を喰らいそうだし。


「とにかく、これからよろしくね。お魚さん」


「ぎょっぎょぎょ!(魚ではない!神獣はちゅうるいだ!)」


コイカはとことん俺を魚呼ばわりしてくる。

言葉を話せないというのは、本当にもどかしい事だ。


まあ神獣である事は内緒トップシークレットだから、たとえ話せても伝える事は出来ない訳だが……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る