幸せな最期

「ねえ、誰にも愛されない者同士、一緒に死なない?」

 らんらんと怪しい光をたたえる鈴ちゃんの瞳。

 そう言って、鈴ちゃんは包丁を私の胸に向かって繰り出してきた。

 身をひねって回避する。

 どうすればいいのか。

 なんて言えばいいのか。

「もう一回だけ、私にチャンスをくれない? 今度は絶対に自分勝手な行動はしないから」

 鈴ちゃんは何も言わずに、包丁を繰り出し続ける。

 とうとう切っ先が私の頬を掠めた。

 鮮血が飛び散る。

 もう、私の命なんてどうでもよくなってきた。

 きっと、鈴ちゃんは私を殺して自殺するだろうから。

 どうやって、鈴ちゃんの最期を幸せなものにするかについて考え始めた。

 意を決して私は、鈴ちゃんの体を抱き寄せた。

 背中に迸る激痛には、意識を向けないようにする。

「大好きだよ」

 最後にそれだけ言い残すと、私は意識をなくした。

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私はただ、誰かに愛されたかっただけなのに 天音心羽 @amanekokoha

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