一番恐れていたこと
夕食の準備をしているときに、鈴ちゃんは言った。
「茜ちゃん。私、トイレ行きたい」
逃げられるといけないから、持っていた包丁を離さずに鈴ちゃんのもとへ向かった。
手錠と、足枷を外した。
私はこのとき、まんまとはめられていることには気づかない。
急にうつろだった鈴ちゃんの瞳に光が宿った。
その瞬間、私の右手の包丁が消えていた。
驚く間もないまま、私の鼻先に鈴ちゃんが持った包丁が突き付けられる。
「鈴ちゃん?」
てっきり、私に堕ちたものだと思っていた。
「茜ちゃんなんて、大っ嫌い」
その言葉を聞いた瞬間、感情が決壊した。
「そ…………んな……嘘だよ……ね…………そうだよ! 私はこんなにも鈴ちゃんを愛しているんだから。大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き」
私は肩を上下させながらまくしたてた。
唾をまき散らして。
地団駄を踏みながら。
近くにあるものを手あたり次第投げまくった。
鈴ちゃんは、そんな私を憐憫の眼差しで見つめた。
「愛っていうのは、相手のことを考えるってことだよ」
鈴ちゃんは優しいけど、どこか威圧的に話した。
私は、感情の暴れるままに口を開く。
「考えてるよ! ずっと、ずっと!」
「いや、茜ちゃんのそれは間違えてるよ。私の嫌がることを平気でする。つまり、自分のことしか考えていないよ!」
諭すように、そして半ば戒めるように鈴ちゃんは言葉を紡いでいく。
「ジブンノコトシカカンガエテイナイ?」
知らない言語を聞いた時のように、言葉が頭の中に入ってこない。
理解したくない。
私が間違っていたなんて思いたくない。
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