第20話 ダンジョン攻略・制圧
2層攻略も順調に進み、第3層に入ったところで“休憩”をとった。
再び結界を張って、カイルと私とで一時間交代の睡眠をとる。
小規模
しっかり休んで、万全の態勢で臨みたい。
「……無事に終わりそうかな」
制圧したたまり場の入口付近で見張りをする。
後ろではカイルが壁にもたれて目を閉じ、イアはその足に頭を乗せてすやすや眠っている。
今のところ彼女は一度もカイルの“中”に入っていない。
実体化を好む精霊もいるけれど、ずっと姿を見せ続けるのは珍しい。
これまでの成果は
迷宮の規模を考えれば十分だし、過ぎるというほどでもない。
いくらかのお金と、使えそうな触媒、
ありがたいことに、次回の探索分くらいは確保できた。
だから日々せっせと節約して、金銭や道具の管理に気をつかう。
ちまちまと、せせこましく。
冒険者としてやっていくために“冒険”をする日々。
出口のない循環。
……いつまで
こんな生活、いつまで続けられるだろう?
カイルを見る。
素晴らしい才能と実力を持つ冒険者。
彼の名はすぐに広まって、優秀な
自身で仲間を募っても優れた冒険者が集まるはずだ。
……そこにきっと、私の居場所はない。
ロッドを握りしめる。
柄に描かれた刻印が目に入る。
前の持ち主のものである魔法使いの紋章。
懐かしくて辛い思い出がそこには刻まれている。
「どうすればいいの……お姉ちゃん?」
□□□
むき出しの土壁が石壁へと変わる。
足もとが丁寧に均されて、雰囲気が変化する。
“
「……奥に広い部屋があって、左右にも空間があるかな……隠し扉かも」
「誘い込んで左右から不意打ちってところか」
「“こしゃく”な奴らだね!」
ここが最深部なら、迷宮の“主”の部屋かもしれない。
正念場だけれど不安はない。
カイルが隣にいると、自然と
門番の重装ゴブリンをいなして、仰々しい扉を押し開く。
果たしてそこには玉座があって、頭に冠をのせたゴブリンの“
私たちを見ると王は立ち上がり、周囲の親衛ゴブリンたちが武器を構える。
「迷宮の“鍵”を渡して静かな土地に行くか」
カイルが剣を抜き、王に切っ先を向ける。
「それとも死ぬか、選べ」
魔物にとってみれば要求は理不尽だろうけれど。
人間に被害が出る以上、見過ごすことはできない。
「ゴウマンナ、ヒト、ゴトキガ」
たどたどしい人語を吐き捨て、王が片手を上げる。
背後の扉が閉まり、同時に左右の隠し扉が開く。
予想通りゴブリンの伏兵が現われて、私たちを取り囲んだ。
「オスワ、カワヲハイデ、メスワ、ハラマセル」
……これが苦手。
人型の魔物は人に似て性欲が旺盛。
目の前で“犯す”宣言されると、ちょっと気まずい。
王もゴブリンの親衛隊も、通常個体と比べて相当に強力に見える。
「問題ない。身を守ることだけ考えて」
言葉通りに、カイルは落ち着いている。
「私も、戦う」
言って、杖を握る。
きっととても安心しているからだ。
カイルがいるから、
「ああ、頼む」
そう、微笑で答えてくれる。
……よく分からないけど。
胸が
□□□
王の合図とともに、部屋がゴブリンたちの咆哮で満たされる。
棍棒に剣、そして槍と弓。
多様な武器を構えた小鬼たちが襲いかかってくる。
けれど一定の距離を越えて、私たちに近づくことはできない。
「──」
突き出された槍ごとゴブリンの首が飛ぶ。
見えない剣筋と頭上に降り注ぐ仲間の血。
群れの勢いがたちまち止まる。
「どうした、かかってこい」
カイルの挑発にも足がすくんでいる。
「《
私の放った小さな炎の塊が最前のゴブリンの頭を焼いた。
声もなく倒れる仲間を見てゴブリンたちが後ずさる。
カイルが振り返って私に一度うなずく。
──やってやる。
《
《第一階》“
《
この探索分の全てをぶつけるみたいに私は魔法を唱えまくる。
氷弾がゴブリンを貫き、雷撃が痺れさせ、炎で体を焼く。
《第一階》“
《第三階》“
《第二階》“
風で皮膚を切り裂き、土壁で押し潰し、魔力の剣で首をはねる。
イアが目を輝かせて私を見ている。
まったく、力が入っちゃう。
そして──カイル。
目にも留まらぬ速さでゴブリンたちを切り伏せ、鎧をまとった親衛隊をひと振りで両断する。
その身にかすり傷一つ負うことなく。
侵入者を包囲したはずの軍団は瓦解し、王は壁際に追い詰められる。
玉座は崩れて手にした豪奢な剣も形無しだ。
「詰みだ、王」
「ニンゲンガ……!」
首に切っ先を突きつけられても王は降伏しなかった。
迷宮の主としての意地だったのだろうか。
──
カイルの吐息が聞こえるくらい、静かな終わりだった。
王の首が床に落ち、剣が金音をたてた。
「おねえちゃんすごい!」
「魔法の
カイルは王の残した剣を拾い、少し考えて布に包む。
「あなたも、相変わらずとんでもない強さね」
「君が敵を押さえてくれたからだよ」
何でもないことのように、彼は言った。
奥へ続く扉の向こうには宝物庫があった。
安全を確認してから踏み込むと、部屋いっぱいに宝箱が置かれていた。
「うぉぉぉ!」
イアが声を上げる。
「無事
カイルもほっとした表情で宝物の山を眺めている。
なるべく急いで選別したいところ。
主を倒したなら、じきに迷宮の崩壊が始まる。
──崩壊が。
突然足もとが揺れだして思わず尻もちをつく。
「じ、地震!?」
いくらなんでも早すぎる。
「わわわ!」
宝箱に飛びついていたイアが私のところまで転がってくる。
床一面に亀裂が走っていた。
カイルが素早く私たちをつかみ出口を見る。
「これは……」
戸惑いの理由。
入口も出口もない無限空間に変化している。
このままではどうやっても落ちていくしかない。
たしかに“探知”したのに。
勝利に油断せず、最大の注意を払って魔法を行使したのに。
「ああ……」
すぐに悟る。
この“
私には到底及ばない力で。
脱出しようにも“
私なんかにはとても使えない。
「く……!」
地面が隆起してカイルがよろける。
「イア、俺の──」
言葉が届く前に床が崩れる。
足下に広がる暗闇──そのはるか深くに私たちは落ちて行った。
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