第2章 できない魔法使い
第14話 彼女も追放されたようで
ああ、最悪!
苛立つ心をロッドに預け、足元に叩きつける。
魔力のこもった杖の先端が、地面をくぼませる。
周りの人が驚いて振り返るけれど、何も見なかったように通り過ぎていった。
我に返って、その場を離れる。
建物の影に入って気を落ち着けると、心底のため息が出た。
「……どうしてだろ」
ほんと、どうしてだろ。
どうして、私は……。
□□□
新しい
見わたすと一団の“
代わりに初めて見る、私以外の“魔法使い”がいた。
話し合いの間にそれぞれの役割が割り振られたけれど、私に目を向ける者はいなかった。
「んじゃ二時間後に指定の場所で。準備しといてくれ」
「あの、私は……?」
「ああ、ディーネ」
彼は顔を上げると、何でもないことのように告げた。
「お前はもう必要ない。お別れだ」
「……は?」
「
「な、何言ってんの?」
私は机を叩いて抗議の意を示したけれど、ケルマトの表情は冷たいままだった。
「あの子さ、もう“
ぞわっと背中を走ったのは何だったんだろう。
衝撃、嫉妬、悔しさ……それとも、絶望?
「わ、私は……」
「いつまでたっても“
体が震える。
現実を突きつけられていた。
「わ、私だって、努力して、毎日欠かさず、訓練もして──」
口を動かすたびにみじめになる。
まだしがみつこうとしてる。
「結果が出なかったら意味ねーのさ、ディーネ」
にらまれて、言い訳の全てが消えてなくなる。
「みんな優しいからさ、口には出さなかったけど、うんざりしてたんだぜ。いつまでたっても成長しないお前をな。ファーガスはかばってたけど、さすがにもう限界だよ」
さよならだ、ディーネ。
その言葉はもう遠くに聞こえていた。
代わりに頭を満たしていたのは“疑問”。
続くケルマトの言葉は怒りを呼んだ。
「……まあでもさ、俺は結構お前のこと気に入ってるんだぜ? 見た目は良いし、実家も
「な……!?」
全身に鳥肌が立つ。
私を見るケルマトの視線は、侮蔑から色欲へと変わっていた。
彼が肩に手を伸ばしてきたとき、私の中で何かが崩れた。
「部屋に来いよ。お前の態度次第じゃ、これからもそばに置いてやる。仕事に参加できなくても、
気づけば平手でケルマトの頬を張っていた。
“
集まっていた冒険者や職員たちが驚いている。
彼らの視線全てが、私を見下しているように感じられた。
……実際、そうだったのかもしれないけれど。
□□□
それから少し経って、今。
「はぁ……これからどうしよ……」
所属していたパーティは上級とまでは言えなくても、堅実に仕事をこなしてきて評価は高い。
すぐに私の悪評が広まって、ギルドに居場所はなくなる。
低級な魔法使いが一人、行くところなんてあるだろうか。
……屋敷に戻る?
「それはだめ」
それだけは……自分が許せない。
くだらない
とんがり帽子を脱いで裏返す。
縫い付けられた
「……やっぱり、私じゃだめなの?」
持ち主のことを思い出すと、涙がにじんでくる。
決して消えることのない、温かくて眩しい記憶。
「あのー、もしかして君、魔法使い?」
不意に声をかけられて、跳び上がりそうになった。
ごまかすようにゆっくりと帽子をかぶり直す。
目の前に男が一人と──小さな女の子。
腰には剣を提げていて、冒険者だろうか?
今更私に声をかける冒険者なんているわけない。
だったら……。
「何よ、
答えると、男は慌てた様子で手を振り否定した。
「あ、いや。仕事で探索に向かうんだけど、魔法使いがいてほしいなと思って……それで声をかけてみたわけで」
「おねえちゃんが美人だから、“わんちゃん”狙ってみたの!」
「変なこと言うな、アホ!」
「ふわぁ~」
男は女の子の頬を引っ張って、「ごめん、余計な事ばっかり言うやつで……」と目の前で戯れだす。
なんなの、この人たち……。
それが私──魔法使いディーネ・マクニースと彼ら──冒険者カイル・ノエと精霊イアとの出会いだった。
振り返ると本当に偶然で──運命的な出来事だった。
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