23話 進展


「なら、試してみる?」



僕の挑発に触発されたのか、花は服を脱ぎ始めた。

どこまでが冗談なのか判別が付かない。




「僕で遊ぶにしても、流石にやりすぎだ」


全く興味がない素振りをして花の行動を抑制するよう試みる。




___が、それは逆効果だった。



上着だけではなく、下も脱ぎ始めた。

咄嗟に目線を逸らすが、「スッスス」という服を脱ぐ音だけでも心が騒ぐ。



「ほら、こっち見て。ねぇ、この下着どうかな?」


絶対に目を逸らすさせないと言わんばかりに、僕の顔を両手で固定し、花自身の下着姿を凝視させられる。


フラワーさんから送られた真っ赤な下着姿に似ている。

写真の記憶と目の前の光景が重なり、体の奥から熱くなってくる。


てか、花の手はこんなにも柔らかいんだな。

目の前に映る”雪のように真っ白な体”は、外見とは裏腹に心地よい温もりに違いない。




「ワタシの体に触れていいよ? さっきの答えだけど、こんな事をするのはアオだけだから」


どんな時も味方で居てくれた幼馴染が、僕にしか見せない姿をさらけ出している。

とてつもない独占欲と征服感が脳内に染みわたっていく。



高校生の僕には抗うことが出来る筈もなく、そっと手を伸ばす。


あと数センチで指先が花の体に触れてしまう。



「ワタシに触ったら”責任”取って貰うからね?」



「責任?」


言葉の意味は辞書で引かなくても分かるのに、反復して聞き返してしまう。

この状況で指し表すのは、自分でも熟知している癖に……。



「ワタシを自由にしていいから、アオはワタシだけのモノになるの」



「花のモノ……」


少し予想外の返答に戸惑う。

”付き合う”とは程遠く、束縛間の強い関係を提示された。



一時の快楽に身を任せ、花の甘言に流されるのも悪くないと考えそうになる。

ここまで男を惑わす幼馴染に恐怖すら覚える。



自分の中で”理性”と”欲望”が戦っていると、花が甘ったるい声を放つ。






「時間切れ……かな」



「え……」


これまでの雰囲気が一瞬で消え去り、男女の関係から幼馴染へと戻った。

何か気に障るような事でもしたのだろうか。


いや、数分間の記憶を辿っても確実に何もしていない。



あ、そうか。


僕は”何もしなかった”のか。





「まだ早かったかな」



「え、何か言った?」


花のボソっとした独り言により、自分だけの思考世界から現実に帰還する。




「ここで迷っているようじゃ、駄目かな」


先程と言っていることが違うような気もするが、聞き返すことはしなかった。

只でさえ、耳の痛い言葉を浴びせられているのだから、自分から傷口を広げるような真似はしない。






『カシャッ』



僕がたじろいでいると、花は2人が収まるようにスマホで写真を撮っていた。

説明がなければ、あきらかに”事後”にしか見えないだろう。




「ちょっと、写真は危険だって! 間違って流出でもしたら……」


拡散したら危ない写真を抱えるのは、爆弾を付けられて生活をするのと同義だ。

僕以外に弱みを見せることを極端に嫌う花のポリシーとは反する気がする。




「うん、絶対に”間違って”拡散されることは無いよ。ワタシがそんなミスした事ないの知ってるでしょ?」


「いや、でも。その写真を持っていられると、僕が恥ずかしいというか、何というか……」





『チュッ』



唐突に、頬に暖かくて柔らかい感触が伝わってきた。

何があったのか、目で見てから脳で処理するのに時間が掛かった。






なぜなら、花が僕の頬にキスをしているからだ。






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『シーマ』~親しい他人になって本性をさらけ出しませんか~ 富士町ペンシル @fujimachi777

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