22話 監視
「あれ、ドアの前で何を話しているのかな?」
花に田中君と2人で話している光景を見られた。
いつものように”フラッと”僕の家へ立ち寄ったのだろうか。
「うわぁぁぁぁぁ!」
田中君は僕の肩から手を放して声のする方へ振り向くと、尋常ではない驚き方をした。
「えーと、確か田中君だったよね。アオとはどういう会話をしていたの?」
田中君が怯えるている事には一切触れず、話題について問いただしている。
とてもじゃないが、軽いパニック症状を起こしている田中君では答えられないだろう。
仕方ないので、代わりに僕が返事をすることにした。
「今は___」
「俺は何も言っていない! なぁ、そうだろ!?」
僕が言葉を発した途端、田中君が大きい声で遮った。
まるで言われたくないことを隠すかのように露骨な行動に見えた。
「必死に隠そうとしているのは、なんか怪しいな(笑)」
もしかして、花は卑猥な話をしていたと勘違いしているのかもしれない。
男子同士が必死にうやむやにするのは、下ネタ関係が多いとアニメでやっていたし。
どうせ察しが良い花は、全てを理解した上で揶揄いに来たんだろうな。
幸いにも、少しのラリーで滑稽な態度を十分に堪能したのか、花はこれ以上は深堀しなかった。
「うん。アオの表情を見ていて分かったよ」
「そうか。信じてくれて良かった。じゃぁ、俺はそろそろ帰るわ」
必死に弁明をしていたことが報われ、田中君は安堵する。
そして、逃げるように駆け足で姿を眩ませていった。
「アオ、大丈夫? また暴力を振るわれていない??」
花は患者を診断するように、僕の顔を触ったり見回す。
ここでようやく花の目的が分かったのと同時に申し訳ないと感じた。
先日、余すことなく田中君との一件を吐かされたので、2人きりになっているのを心配していたのだろう。
花の部屋から僕の家が見えるので、急いで駆けつけてくれたことが分かる。
その証拠にスリッパと部屋着を隠すために上着を羽織った姿だった。
懸命に守ろうとしてくれる花を見て、胸が苦しくなる。
「花、心配してくれてありがとう」
お礼を言うだけのつもりだったが、衝動を抑えられず花を抱きしめていた。
目の前に映る幼馴染がとても愛おしく感じ、体が勝手に動いてしまった。
「うん。アオの事はワタシが守るからね」
花は僕の背中に手を回し、お互いに密着するように抱擁した。
大事な人の体温は心地が良くて、二度と離れなくないと思ってしまう程だった。
だが、こんな格好の花をいつまでも野ざらしにしたくないので、家に招き入れて一緒に夕食を取った。
食後は流れのままに風呂まで入った。
そして、今は休憩ということで僕の部屋でゴロゴロしている。
別に嫌ではないので追い出すような真似はしないが、あまりにも無防備すぎるのが悩みの種だ。
「花は他の人の前でも、そんなに丸腰なのか?」
頭の中で留めておこうと思っていたが、口が滑ってしまった。
今日の僕は自制が効かないな。
「ん~、気になるのかな?」
寛ぎモードから一転し、花は遊び相手を見つけた猫のようにニタっとする。
失言したと後悔するのは遅く、弄るためのネタを献上してしまった。
「いや、別に……」
「もぉ、言動が一致していないよ(笑)」
指摘された通り、表面上は興味ない素振りをしているが表情は正直だった。
ここで意地を張りつづけるのは無理があると諦め、素直になる事にした。
「いつか襲われても知らないからな」
結局は少し捻くれた物言いになってしまった。
でも、花に注意を促すことは出来た。
なのに、花は上着を脱ぎ始めた。
「なら、試してみる?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます