21話 懇願
「頼む……。お前から、俺を許すよう”あいつら”を説得してくれ!!」
必死に頼み込む、田中君の姿があった。
「何のことですか?」
田中君に何を頼まれているのか理解できなかった。
説得と言われても、心当たりすら無い。
「しらを切るんじゃねぇ! ”あいつら”はお前のために俺を……。追い込んでんだろ!!」
「すみません。本当に話の流れが掴めません」
田中君に必死にお願いされる事はある訳がない。
僕たちの間に利害関係が生まれる程の関係性すら築けていないのだから。
「お前、本当に、何も知らないのか……」
僕がピンとこないリアクションをしているものだから、次第に田中君はガッカリし始めた。
必死に頼み込まれたり、勝手に失望される現状に追いつけない。
そして、田中君は経緯について語り出した。
どうやら鳥居さんとホテルに行ったが、期待していた事は成せなかったらしい。
それどころか、”鳥居さんが田中君に無理やり襲われている”ように見える写真を撮られ、それを材料に脅されているとの事だった。
「それで、何を脅されているんですか?」
相談に乗るような間柄ではないが、興味本位で聞いてみた。
「二度とお前に接触するなと言われている……」
「それなら簡単じゃないですか?」
もし、田中君の話が本当だとしても特に問題だと感じられない。
元々お互いの生活圏が違うので、接触する機会など無かった。
今まで通りに過ごせば、強要されている縛りに抵触しないだろう。
「いや、そうじゃない。姿を見せるのも許されていない」
数秒前の言葉を撤回する。
視界にも入ってはいけない縛りは、誰であろうと遵守するのは不可能に近い。
ましてや同じくクラスメイトとなれば尚の事だろう。
そうか、だから田中君は学校を欠席していたのか。
「でも、それだと僕に会いに来たのは駄目だと思うんですが……」
「だから、”あいつら”に見られたら……。俺は終わりだ」
話の流れからするに、この状況はルール違反だ。
田中君はそのことを十二分に理解しながらも、最後の賭けに出たのかもしれない。
「このままだと学校に行けねぇんだ。でも、お前から”あいつら”俺を許すと言えば、解決できるかもしれねぇんだ! だから、頼む!!」
再度、田中君は頭を下げて請う。
正直に言うと、田中君が追い込まれているのは自業自得の部分が大きいと感じている。
それに、僕が田中君を助けられる力があるとは思えない。
思考を活発化させるために僕が石造のように固まっていると、田中君に肩を掴まれた。
以前に首を絞められた力とは程遠く、今は縋りつくように手を乗せているだけだった。
数日で人はここまで変わるものだなと、少しだけ関心する。
ここまで田中君の話を聞き、1つだけ気になったことがあった。
それは、”あいつら”を説得してくれと複数形になっていることだ。
鳥居さんとは別の人も存在することを示している言いぐさだ。
「鳥居さん以外の人からも脅されているんですか?」
子供が大人に純粋な疑問をぶつけるように聞いた。
「それは……」
田中君は急に歯切れが悪くなった。
その別人に”正体を言うな”と口止めされているのだろうか。
だが、田中君は『ゴクリ』と大きく唾を飲み、覚悟を固めて口を開いた。
「そいつは___」
「あれ、ドアの前で何を話しているのかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます