18話 勘違い


胸に棘が突き刺されている感覚を味わいながらも、家へ帰宅した。

ダメージを負っているのは首なのに、どうして胸がこんなにも苦しいのだろうか。


そんなことを自問自答しても、誰も答えはくれない。



とりあえず、何も考えたくないからシャワーに入ってから寝よう。




思考をリセットして寝る準備を整えた。

そして、部屋に入ると___




「待ってたよ!」


花が当然のように歓迎してきた。

まるで、待ち合わせ時間よりも早く来てしまい、恋人を待っているようなシチュエーションだった。



「ごめん。今日はもう寝る」


僕の部屋に居る理由を聞く気にはなれなかった。

いつものように言いくるめられ、無駄に体力を消耗するからだ。

なので、ベットを背もたれにしている花をスルーし、布団の中へ潜り込んだ。



「あれ。アオ、どうしたの? 嫌なことあったのかな??」


交わした会話はたったの一言なのに、僕が辛い状況に陥っていることを悟っていた。



「別に……」


「何かあったらすぐに布団の中に籠る癖、出てるよっ!」


花に指摘されても”癖”という実感は湧かない。

いや、無意識にやっているのだから当然か。




「あった。けど……。話す気になれない」


「そんなこと言っちゃうんだ。なら、強硬手段取るしかないかな」


花は素直にならない僕が気に入らないのだろう。

声のトーンが一段階下がり、物騒なことを言い放っている。




そして、花はすぐに言葉通りに行動した。





「ちょ、な、なにしているのさっ!」


必死に状況説明を花に求めた。

何故、同じ布団の中に侵入してきたのか納得する理由が欲しいものだ。



「いいからさ、ほら!」


花は弁明するどころか、自分の胸に僕の頭を引き寄せてきた。

シャワーなんかよりも断然に思考がクリアにされていく。


さらに、母が子供に施すような”頭ポンポン”のおまけ付きだ。




「それで何があったの?全部教えて欲しいかな」


再度、花に問われる。

先程とは異なり、僕には抗う選択肢は無かった。



結局、あらいざい吐かされた。

花の前で隠し事をするのは不可能だろう。

将来、花と結婚した相手はかなり苦労しそうだな。






「そっか。首に痣ができるくらい痛めつけられたんだね……」


手で負傷した部分を撫でながら慰められる。

それなのに、一瞬だけ寒気がした。

布団と花の温もりで寒気とは無縁のはずなのにな。





全てを話したことで羞恥心は跡形も無くなっていた。

だから、胸が痛い理由について確かめることにした。



「もしかして、僕は鳥居さんの事が好きなもしれない」


そう、心当たりはあった。

鳥居さんが他の生徒と違う存在であることには確信を持っていたが、今日の出来事で”好き”かもしれないと考えるようになった。


そのような経緯から、この手に詳しい花に聞かずにはいられなかった。





「それは……。勘違いだよ」


「え……」


花の言葉にショックを受けた。

もしかしたら、恋であって欲しいと願っていたのかもしれない。

友達という存在にトラウマがあるので、好きな人という枠組みで捉えたかったのだろうか。


でも、花が言うのであれば間違いはない。




「助けてもらった”恩”を”好き”と錯覚するのは良くある事だからね」


そう言われてみると、納得がいく点が多々見受けられた。

相談できる相手が居なかったので、勘違いするところだった。



突っかかりが取れたことで、気分が晴れていった。

それと同時に眠気が襲ってくる。








「アオはワタシのことだけ見ていれば良いんだからね」


現実か夢なのか判別が付かない中、花から諭すように言われた気がした。

まるで深層心理に刻み込まれるように、その言葉が心の奥に溶け込んでいった。








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すみません。

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