17話 決意



「もう、辞めて!」


擦れゆく意識の中、鳥居さんの声が聞こえた気がした。

もしかして、田中君を止めようとしてるのだろうか。




「あぁ? なんだよ、今さら!」


「あたしは……。ゆうとが好きだからっ」




何か二人が言い争いをしているのは見えている。

だが、酸素が送られていない脳みそは正常に機能せず、会話の中身までは分からない。



___が、突然首元が軽くなった。


そして、突然支えが効かなくなり地面に倒れ込む。

どうやら田中君が僕の首から手を放したようだ。

先程まで首を絞め続けられていたので、今だに感触が残っている。




「大丈夫? ねぇ! お願いだから、返事して!!」


徐々に現実世界に引き戻されていき、鳥居さんの心配する声が聞こえてきた。

地面に横たわる僕を抱き寄せるように介抱してくれている。


「はい……。死ねなかったみたいです」


『バチンッ』


本音を交えた冗談で応対すると、鳥居さんから頬を叩かれた。

生まれて初めてビンタをされたので、一瞬だけ何をされたのか分からなかった。



「冗談にしても笑えない」


鳥居さんの目元は髪で隠れているため、確認することが出来ない。

それなのに、田中君の鋭い目線より恐怖を感じた。




「おい、あこ。さっきの話は本当か?」


田中君は僕に詫びる素振りさえ見せず、鳥居さんからの”好き”という発言の成否を尋ねる。

僕の命なんて最初から眼中にないのだろう。



「うん」


とてもカップル同士の”愛の確認”とは思えなかった。

ここまで複雑に絡み合っていると、元に戻ることはなさそうだ。



「ハッハハハァ。だってよ? 大浦」


僕を目の敵にしている田中君から、嘲笑いながら勝ち誇った言葉を投げ掛けられる。

鳥居さんから”甘い言葉”を囁かれて愉悦に浸っているようだ。

心の籠っていない”愛情表現”で満足している神経は理解できない。


いや、愛されていないと知りながらも、独占することが出来た喜びに打ちひしがれているのだ。




「そんな奴ほっといて、早く行こうぜ!」


田中君は鳥居さんと2人になりたい衝動を抑えられないようだ。

クラスでの”爽やかキャラ”は作られたもので、目の前に映っているのが本性なのは明らかだ。




「あとは、お姉ちゃんに任せて」


田中君の要望に応えるように立ち上がる直前、鳥居さんは何かを呟いた。

断定することは不可能だったが、”お姉ちゃん”という単語は聞こえた気がした。


でも、何の脈絡もない単語なので、聞き間違いの可能性が高いのは否めない。





「なぁ、本当に俺のことが好きなんだよなぁ?」



「うん、好きだよ」


知らない人がこの場面を見たら、どう思うのだろうか。

安っぽいドラマでも、もう少しはドキドキするラブシーンを提供しているに違いない。



田中君も茶番だと気付きながらも、この状況を楽しんでいる表情を浮かべている。

そして、超えてはいけない一線を軽く超えようとしている。




「なら、今からホテルに行こうぜっ」



そして、田中君に肩を抱き寄せられ、鳥居さんは目の前から消えていった。

その光景を見せつけられて胸が突き刺されるような思いを抱えるも、地面から起き上がることすら出来なかった。






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