16話 爆発


色々と災難が一気に降りかかった昨日は過ぎ、今日も学校へ登校した。

いつもの違うのは、学校の手前まで花と一緒という状況だ。


そして、もう1つだけ違う点があった。

花と一緒に居る場面を目撃されても、少数の生徒なら気にならなくなった事だ。

最近、鳥居さんと学校で話す機会が増えたことで僕の意識に変化が訪れたのだろう。



その代わり、恋人である田中君を避けている鳥居さんの行動が気掛かりだ。



「じゃぁ、プレゼンの準備しようぜ!」


今日は田中君が仕切るようだ。

本来ならば生徒会補佐じゃない田名君が参加する必要は無い。

おそらく、僕と鳥居さんが妙に仲が良く見えたので警戒してのことだろう。


別にそんなことは無いのに、と言っても信じては貰えない。

そもそも僕に対しての信頼が皆無なのだから。




「ゆうと、部活は?」


僕の記憶が正しければ、田名君はサッカー部に所属しているはずだ。

今はテスト期間でも無いので、普通に部活があるに違いない。

そのことが気になり、鳥居さんは聞いたのだろう。



「あぁ、しばらくは休むことにした」


「そこまでしなくて良いのに。あたしと大浦で準備くらい平気だよ?」


「んっだよ。あこは俺と一緒に居たくないのか?」


「いや、だって。部活を休むのは違うでしょ」


鳥居さんはなるべく明るく取り繕おうとしているが、違和感がある。

それは僕だけではなく、田中君も感じ取っていると思う。


遠回しに、田中君と距離を取ろうとしているのかもしれない。

今だけの事ではなく、昨日の帰り道での出来事も相まって確信した。



それに、朝から教室内でも同様の発言をしていた。

鳥居さんの友達も、何かを感じ取っているに違いない。




「では、クラスメイトから集めた”昼寝をしてみた感想”の集計を取りましょう」


恋人同士でピリ付いた空気が流れたので、すかさず話題を変えるように誘導した。

プレゼンが会話の中心になると、田中君が鳥居さんの発言に突っかかることは無かった。


それに加え、恋愛が絡むような発言になりそうな時、焦点をズラして未然に防ぐように努めた。


どうして、僕がここまで鳥居さんのために尽くしているのだろうか。

いや、そんなのは決まっている。


鳥居さんのことを”他とは違う存在”と思っているからだ。

ここでハッキリと”友達”と言いきれない自分が情けない。


”今の僕”を変えようと協力してくれているのだから、鳥居さんが助けを求めたら手を差し伸べるのは当然だ。





ディスカッションも終わり、帰宅する時間になった。

今日も田名君に邪魔者扱いされると思うが、カップルの帰宅に同行しようと決めていた。



「そろそろ帰ろっか? ”3人で”」


昨日とは異なり、今日はハッキリと鳥居さんが帰宅デートを拒絶した。



「はぁ」


田中君は否定や肯定をするのではなく、ため息を吐くのみだった。

鬱憤が溜まってきているのは火を見るよりも明らかだ。

最悪の形で爆発し、鳥居さんに被害が及ばないか心配だ。




昨日と同じ道を通り、丁度3人が別れる場所まで辿り着いた。

このまま何事もなく解散するかに思われたが、事態は想像の斜め上へ進んでいった。



「なぁ、あこ。俺のこと好きか?」

田中君が前振りもなく、センシティブな質問をした。



「ちょっと、辞めてよね。2人だけじゃないんだし……」


鳥居さんは明言するのを控えている。

しかし、田中君はそれを許容しなかった。



「そうさせなかったのは、お前だろ?」


やはり、田中君は勘づいていた。

鳥居さんが自分のことを好きではないと知ったのだろう。

いや、本当は告白をした時点で分かっていたのかもしれない。



そんな確信を付いた質問に、鳥居さんは言い淀んでしまう。

そして、田中君は僕の方へ鋭い目つきを浴びせながら言う。



「お前が原因か?」


あえて、僕が居るタイミングで鳥居さんに「好きか?」と質問したのだと分かった。

最初から僕を問い詰めることが目的だったのだろう。




「狭い檻に閉じ込められたら、動物は逃げたくなります」


ここで当たり障りのない事を言うのは簡単だ。

そうやって僕は生きてきたのだから。


でも、それでは鳥居さんにとって苦しい状況を現状維持するだけだ。


だから、状況を変える勝負手を指すことにした。




「おい、どういう意味だ?」


田中君は僕の首を鷲掴みにし、目が血走るくらいキレている。

それでも、僕は言うのを辞めない。



「鳥居さんを解放してあげてはどうですか? 我慢して、好きでもない人の彼女を演じるのは可愛そうです」


掴まれた首には爪がめり込んでおり、血が流れている。

それくらい握り込まれているので、呼吸も困難になってきた。




『ギュゥゥゥ』


田中君は僕のことが憎くて仕方がないのだろう。

握力はどんどん強くなり、完全に首が絞まっている。



「ヴッ、ァァァ」


言語を成さない声が漏れる。

必死に呼吸をしようとするが、叶わない。

すでに体の力が入らないので抵抗すら出来ない。


脳に酸素が送られず、徐々に意識が遠のいていく。




まぁ、生きる理由なんて無いし、このまま死んでも構わないか。

中学生で人間の醜さを知り、全てがどうでも良くなった。


実際、全てを失ってからは死んだも同然だったし。



このまま死ねば、田中君は少年院行きだな。


そしたら、鳥居さんは別れる事が出来るな。






最後くらい、人の役に立てたかな……。

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