13話 責任




「ちょっと待ってくださーい!僕も帰り道コッチなんですよね」



リア充カップルの帰宅デートに、ハーフニートの僕が割り込んだ。



いや、僕は何をしているんだ。

自分でも行動した理由に見当が付かない。


でも、これだけは分かる。

鳥居さんは明らかにヘルプサインを出していた。


周囲の視線を伺いながら生活している僕が感じたので間違いないはず。


なので、蚊が恐れを知らずに火の中へ飛び込むように、僕は歓迎されない空間へ侵入した。

これで鳥居さんからのヘルプサインが勘違いだったら、僕はただの道化だな。




「あ? お前空気読めよ」


案の定、田名君はアタリのキツイ言葉を放つ。

恋人との時間を邪魔されたのだから怒るのも当然だろう。

それは予想通りの反応だった。



「まぁ、いいじゃん? そんな邪険にしなくてもさっ」


鳥居さんは僕の存在を受け入れてくれた。

助けを求めているという前提条件は間違っていなかった。

だが、どうして恋人に対して恐れを抱いているのか疑念が残る。

僕がその理由を知る日はくるのだろうか。



その恋人である田中君は鳥居さんの言葉を聞き、露骨に気分を下げている。

そして、嫌な態度を隠そうともしないまま鳥居さんの言葉をしぶしぶ受け入れた。



「はぁ、あこが言うなら一緒に帰ってやる」


「ありがとうございます……」


凄い上から目線な物言いだが、田中君の許可を貰った。

そうしてカップルに余計な1人が加わって帰路に着く。



歩き始めた際、鳥居さんから僕にだけ聞こえる小さい声で「ありがと」とお礼を言われた。






気まずさに耐えながらも、無事に帰宅した。

退屈な学校の授業よりも濃密な時間だった。

それが原因で家に着いた途端、忘れていた事を急に思い出すようにドッと疲労感が押し寄せた。

とにかく今は消耗した心と体を癒すべく、ベットにダイブしたい衝動に駆られる。


心なしか、今日のベットはいつもよりフカフカで気持ちよさそうに見えた。



「あー、疲れた」


仕事帰りのサラリーマンのようなセリフを吐き、ベットにダイブした。




そうすると感触が心地が良く、柔らかいものが体に当たる。

それが何か確かめるように手を動かす。



『モニュッ』


とても中毒性のある感触を見つける。

さらに何度も触わると、温かみが伝わってきた。


『モミッ モミッ』



「んっ」


吐息のような声が聞こえたので、一気に布団を捲る。

すると、そこには花が居た。




「人のベットで何しているんだ!?」


かつてのようなフランクな態度で問いただす。

他人のように取り繕う余裕が無かった。



「なんだと思う? あー、いや。アオに胸を揉まれていたのかな??」


火照った体を見せつけながら、僕の質問に答えた。

確かに一部始終だけを切り抜いたら否定はできない。


だが、自分のベットに誰かが潜り込んでいるから起きた事故だ。

そもそも花の行動に問題があるはずだ。


「エッチ……」


ツッコミどころが多すぎて僕が何も言えない中、花は被害者面を続ける。



「それは言いがかりです……。どうして、僕の部屋に居るんですか?」


今しがた起きた出来事に脳の処理が追いつき、反論と他人行儀な態度を取る余裕が生まれた。



「それはね。アオのお母さんが入れてくれたんだよ? アオに会いに来ましたと言ったら、凄く歓迎されちゃった!」


お母さんは勝手に何をやってくれたんだ。

中学生の時ならまだしも、密室で高校生が2人きりなら男女の関係に発展するとは考えないのだろうか。



「そうそう!アオのお母さんにいつ結婚するの?って聞かれちゃったな(笑)」


そうだった……。

花は僕のお母さんに気に入られているのだったな。

口癖のように、「花ちゃんを娘にしたいから結婚しなさいよ」としつこく押してくるくらいだ。



「それは母の冗談みたいなモノなので気にしないでください」



「ん~? それでいつ結婚する??」


花は僕の話を聞く耳を持たず、結婚の予定について尋ねてくる。



「いや、筒井さんと結婚なんてありえないですから……」


僕を揶揄うために結婚の話題を振っているのだろうが、そういったことはキッパリと断ることにした。

モノゴトには”最初は嘘だったのに途中から本当になる事例”があるので線引きはしっかりするべきだからだ。



「”ありえない”とまで言わなくてもいいじゃん……」


「何か言いましたか?」


花はブツブツと小さい声で何かを言い放っていた。

しかし、それは僕に聞かせるために出した声ではなかった。

花の昔からの癖で、不満があると誰にも届かない声で独り言を吐く。


学校などの大勢が居る場所では”癖”を抑えているが、僕の前だけでは出てしまうのは変わっていないようだ。


どこかで、それが僕だけの特権みたいだなと喜んでいるのは口が裂けても言えないな。




「それで、いつまでここに居るんですか?」


女子高生が男子の部屋に長居するのは健全ではないので、帰るように促した。

すると、花は立ち上がった。


僕の言う事を素直に聞き入れてくれたらしい。



しかし、様子が少しおかしい。

ドアの方でなく、僕に向かって歩いてくる。



息が当たる距離まで詰められ、はだけた胸元からは赤い下着がチラ見えしている。


その赤い下着によってフラワーさんの刺激の強い写真がフラッシュバックし、体温が急速に上がっていく。



それに追い打ちを掛けるように、花は顔を近づけて僕に耳打ちをする。

今度は僕にだけ聞こえる声で囁く……。




「責任とって」









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