12話 恋人
「おい。今、お前ら何やってたんだ?」
ガララと教室のドアを勢いよく開いたのは田中君だった。
まるで苦虫を噛み潰したような表情で怒りを露わにしている。
「どうしたの、ゆうと。ちょっと怖いよ?」
鳥居さんは田中君のことを下の名前で呼ぶ。
その声には、少しだけ恐怖心が混じっているように思えた。
「あこが大浦の頭を撫でていただろ! お前ら、いつからそんな関係になってたんだ??」
底の知れない怒りの原因は、鳥居さんと僕が親密そうにしているからだった。
鳥居さんが異性に触れているのが許せないようだ。
ここまで問い詰めているのは、鳥居さんと田中君が恋人同士だからかもしれない。
ただの友達では現状のようにはならないだろう。
鳥居さんみたいな可愛くてカースト上位者にパートナー不在の方が不自然だ。
それに僕が鳥居さんと会話をする時、田中君に睨まれていたのが何よりもの証拠だ。
「すみません。田中君の”彼女”とは知りませんでした。ただ、生徒会補佐としてプレゼンの準備をしているだけです。それ以上の接点は皆無です」
田中君が懸念していることを汲み取り、僕と鳥居さんに特別な関係が無いことを明確に弁明した。
「当たり前だろ!もし、そうじゃないならお前を許さねぇ」
血管がブチ切れそうな勢いで、恨みにも近い怒気を飛ばしている。
この迫力だけで小動物は気絶してしまうだろう。
「鳥居さんは僕の頭に付着していたゴミを取っただけです」
「本当か?」
田中君が目撃した一部始終についての真相を告げた。
それに対し、田中君は鳥居さんに事実確認を取った。
「大浦の言っている事が全てよ」
そう答える鳥居さんは、先程までの明るさが嘘のように消えていた。
これは僕の勘違いじゃないのは確かだ。
「そうか!大浦、怒鳴って悪かったな。彼女を心配する余り冷静さを欠いていた」
鳥居さんの口から事実確認が取れた事で、クラスで見せる爽やかな笑顔になっていた。
気迫あるキレ方は少しばかり過剰だと思ったが、パートナーへの独占欲としては普通なのだろうか。
「そうだ、部活も終わったし俺も準備を手伝うぜ!!」
誤解が解けたことで上機嫌になった田中君が提案する。
「今日はもう終わったから大丈夫」
僕が返事をするまでもなく、鳥居さんが言い放った。
この後はプレゼンする原稿の内容を考えようかと想定していたが、鳥居さんが解散すると言うなら素直に従おう。
そして、流されるまま靴箱まで3人で移動した。
僕みたいな“陰”にカテコライズされる人間と“陽”の住人が横並びで歩くのは不釣り合いだ。
自分で言ってみたけど、心が抉られるなぁ。
「じゃぁ、俺たちはこっちだから」
校門まで着き、左右の大きな分かれ道に差し掛かった。
すると、田中君は左の道を指差して別れの言葉を告げる。
僕も帰宅路は同じ方向なのに、とは口が裂けても言えなかった。
鳥居さんと2人きりになるため、僕に釘を刺したのかもしれないからだ。
「はい……」
結局、気の抜けた返事をするのみだった。
このまま2人が見えなくなるまで校門で待機
してから帰ろうか。
だが、ここに来るまで殆ど無言だった鳥居さんが口を開いた。
「あのさ、大浦……」
姫が連れ去られるように田中君に肩を掴まれた鳥居さんは、助けを請うように僕を見る。
「いや、やっぱ何でもない。また明日ね……」
鳥居さんは明らかに言いかけた言葉を飲み込んでいた。
そして、諦めたような表情でその場を去って行く。
やがて2人の背中が見えなくなっていく。
恋人同士の距離間というモノは分からないが、あの2人の関係性が正しいとは思えなかった。
でも、僕はそれについて言及はしない。
これまで通り、他人には深入りしたくないからだ。
そうであったはずなのにーーー
「ちょっと待ってくださーい!僕も帰り道コッチなんですよね」
リア充カップルの帰宅デートに、ハーフニートの僕が割り込んだ。
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