10話 襲来、そして湧き出る感情


『下着は何色が好みかな?』


フラワーから刺激的な写真を送られてきた。


僕は人生の中でこんなにも悩んだことはあっただろうか。

相手が何を考えているのか理解に苦しむ。


もしかしたら、恋人だから普通なのかもしない。

だが、僕とフラワーはネット上で”恋人ごっこ”をしているだけなんだ。



だから、どうやって答えるのが正解なのか分からない。




『ビックリしたw こんな写真送っても大丈夫なの?』


僕は逃げの一手を打つことにした。

何が正解なのか分からないため、はぐらかすことに決めた。



『ワタシの下着姿を見れるのはアオト君だけだよ~(笑)』


『恋人の特権ってやつかw』


精一杯、虚勢を張って返信した。

”理想の自分”はこのような話題ごときで動揺なんてしないからだ。



『それで、何色が好き?』


再度、下着の色について尋ねられた。

さりげなく話題をズラせたと思ったが、逃がしてくれないようだ。



『あ、話を逸らそうとしても無駄だよ?(#^.^#)』


僕の心を完全に読まれている。

絵文字を用いて可愛いメッセージにしているが、こんなにも恐ろしいと感じるのは初めてだ。

浮気調査をされる彼氏の気分はこんな風なのかもしれない。



ここまで問い詰められたら、正直に言うしかない。

僕は覚悟を決めてメッセージを送信した。


『赤色かな? 大人っぽくて印象に残るからさ』



『おっけ~! 参考にするね!(^^)!』


僕の意見を聞き、フラワーは納得してくれた。

これで刺激の強い会話がようやく終わると思ったが、そうではなかった。




『一生懸命考えてくれたお礼だよ~』


赤色の下着を纏った、色白で綺麗な体の写真が送られてきた。

男子としては嬉しくない訳があるはずもないが、反応の仕方に困る。


僕が想像していた以上に、この”恋人ごっこ”は本格的のようだ。




『今晩はこの写真で楽しんでね(笑)』


そして、止めの一言が送られてきた。

写真だけではなく、言葉でも攻めてくる。



ずっとフラワーにやられっぱなしでは納得がいかないと、僕の負けず嫌いの性格が出てきた。

なので、最後に一発だけフラワーに食らわせることにした。




『今日は3回くらいイケそうだ!』


下ネタには同じくエロで返してみた。

背伸びをした精一杯のやり返しだ。



送る直前まではハイテンションでまともな思考ではないので気付かなかったが、見返すと酷い文章だな。



これまではすぐに返信がきていたが、僕のメッセージを最後に来なくなった。

この一連のやり取りでの勝利を確信した。



だが、そう甘くはなかった。


『なら、もっと素材を用意しないとね?(#^.^#)』


”売り言葉”に”買い言葉”は収まらず、より刺激の強いメッセージが返ってきた。

どうやら、討論でフラワーに勝つことは不可能なのかもしれない。



これ以上エスカレートする前に、僕は用事があるからと言って撤退した。

敵前逃亡ではなくて戦略的撤退だ。

そうやって、自分に言い訳を聞かせて納得させるしかなかった。


だって、僕にこの手の話は早すぎるんだ……。



そして、フラワーの件が忘れられずにモヤモヤしながら夜を過ごした。







一夜明け、今日はクラスの前でプレゼンのために協力を仰ぐ日だ。

それがとても憂鬱だ。


なぜなら、僕がクラスメイトの前で説明をすることになっているからだ。

卑屈な僕を変えるためにと、鳥居さんが決めたことだ。




そのようなことを考えながら家を出ると、花が待ち構えていた。



「アオ、おはよう。昨日はよく眠れた?」


花に昨日の夜について聞かれ、フラワーの刺激的な写真が頭をよぎった。

男子高校生が”あんな写真””を見せつけられて平常心で居られる訳がない。


3回もやってはいないが、自分がしてしまった夜の過ちに罪悪感を覚えた。



そんな落ち込んでいる僕の様子を見て、花はただニヤニヤするだけだった。

何が面白いんだろうと疑問だったが、今はそんなことを聞けるような心理状態では無い。



「ちょっと心配かな。調子が悪そうだから今日はワタシが学校まで付きそうね?」


そう言いながら、花の手が僕のおでこに触れる。

熱がないのか温度を確かめているのだろう。


しかし、色白な花の肌は鮮明に刺激の強い画像を連想させる。

思い返さないようにするため、花を視界から遠ざけるように顔を下へ向ける。


だが、花の両手が僕の頬を包み込み、お互いの顔が向かい合うように振り向かせてくる。

2人の間にあるのは僅か数センチ。


「ドクドク」と心臓の音が高鳴る。



そして、花は熱を帯びた視線で”ニヤニヤ”というよりは”ニンマリ”とした表情で問いかけてくる。



「どうしたの?」


たった、その一言で胸の奥から言葉に表せない感情が湧き出てくる。

それは、花に対してだろうか。

それともフラワーへ向けられたものだろうか。


考えても答えは出ない。




今はただ、花の視線に釘付けになっている。



















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