6話 選ばれてしまった


「えーと、各クラスでから男女1名ずつ、生徒会補佐を決めます」


「「「えーーー」」」


担任からアナウンスされ、クラス中から落胆の声が聞こえる。

というのも、うちの学校の生徒会は何かと忙しいからだ。

その分、内申点が上がる見返りはあるが、嫌だという認識は変わらない。



「いいのか? 内申点上がるぞ」


担任がそんなことを堂々と伝えても、誰も立候補しない。




「クソ重労働なんてやってられねーよ」


後ろの席のリア充男子が大っぴらに不満を言う。



「あぁ、困ったな。本当は取りたくないが仕方ない。田辺、お前がやれ」


「はぁ~? やらないっすよ!」

先ほど生徒会補佐をやりたくないと主張したばかりのリア充男子、田辺君が名指しで進められていた。


「お前のためだぞ? 成績悪いのだから、ここで稼いだ方がいいぞ?」


大人の威圧というべきなのか、そのまま田辺君で決定するような雰囲気が漂い始めた。

しかし、リア充男子は折れない。



「そこまでして成績に執着してないっすよ。それなら大浦でいいじゃないですか?」


田辺君が僕に生徒会補佐を押し付けてきた。

しかも、周りの仲間に同調を促している。



「確かにいいと思います」

「まぁ、こういうの適任そうだしな」


クラスのリーダーの決定には誰も逆らうことが出来ず、後押しする声が上がってきた。

それは僕も例外ではなく、反論するなんて許されるはずがない。


「な? そういうことでいいだろ、大浦??」


「はい」


暗に、『お前に拒否権は無い』という含みのある聞き方をされた。

僕は知っている。

ここで断ると、クラスのリーダーに目を付けられてしまう。

今までは”害のない空気”だったので嫌がらせはされていなかった。

今後もそうであるためには受け入れるしかない。




そして、僕は生徒会補佐になった。





「じゃあ、女子からはあたしが立候補するわ」


意外なことに、斜め後ろのリア充女子である鳥居さんが手を挙げた。

同じ生徒会補佐の立場状、鳥居さんと関わる機会が訪れる。

”ヒエラルキー上位の女子”、それを意識するだけで気分が悪くなる。



結局、他に誰にも立候補する人が居なかったため、すんなりと決まった。






『ねぇ、聞いて! あたし生徒会に入ったさ(笑)』


最悪な気分を紛らわすため、シーマを開くとララルからメッセージが届いていた。



『え、僕も生徒会に入ったんだよね。同じだw』


『うそぉ!! おそろだね~』


生徒会補佐になった経緯はどうであれ、ララルと同じならいいかなと思えた。



『まぁ、他人に押し付けられるようにだけどね……』


『あ~、あたしのクラスでも似たようなことがあったわ(-_-;) でも、誰もやりたくないことを受け入れるのは少しカッコいいと思っちゃた!』


『そんなことでキュンとするんだw 生徒会については、内申点も上がるし僕なりに頑張るよ!』




『お互いファイト!(^^)!』


さっきまでモヤモヤしていた気持ちが噓のように晴れていた。

誰かに愚痴をこぼすことで、こんなにも楽になれるんだな。

ララルには感謝しないと。






「あこ、そんなにやる気出してどうしたの(笑)」


「友達も生徒会入ったらしくてさ、モチベが上がるのよ」


「へぇ~、どこのクラス?」


「ん~。違う学校だから分からない(笑)」


毎度のことながら、近くの女子グループの会話が丸聞こえだ。

僕の悪口を言っていないと分かるのは安心だが、陰では何かバカにされているかもしれない。

でも、クラスで悪口が出ない分には構わない。

表立って言われ始めたら、それは中学時代のように最悪の始まりだ。



『アオト君、今何しているの♡』


フラワーからハート付きのメッセージが届いていた。

ネット上とはいえ、恋人の距離感はこんな感じなのか?



『今は最悪の時間を過ごしていた……』


『そっかぁ(笑)でも、彼女と連絡したから最高の時間になったね(*^▽^*)』


『僕の彼女は最高だ!』


フラワーと同じノリで返信をしたつもりだが、数分待っても反応が無かった。

流石に引かれたか……?





『アオトく~ん。そういえば、生徒会とか入ってる? あ、深い意味は無いよ( ^^) 』


メッセージが届いたので嫌われた訳では無いと分かったが、

フラワーから突拍子もなく生徒会の話題が振られた。

特に隠す必要もないので素直に答えた。


『入ってるというか、たった今入った(笑)』


『そっかぁ。何となく気になったから聞いてみただけだよ~(*^▽^*)』


もしかしたら、フラワーも現実で生徒会に入るか迷ってるのかな。

顔も知らない相手がどうしているのか考えても仕方ないが、仲間意識を感じられるのは悪くない。



『あと、今日はまだ好きって一回も言われてないかな(*´Д`)』


このままやり取りが終わると思われたが、とんでもない要求をされた。

いや、恋人なら当然のことなのかもしれない。



『好き』


なんだか、むず痒い恥ずかしさを覚えながらも要求に応えた。

完全に言わされた感のあるメッセージになったが、これで満足なんだろうか。



『ワタシの方が愛してる』


ドキドキしながら、トーク画面を見つめていると強い愛情表現が返ってきた。

顔が熱くなるのを感じながら、ニヤニヤがおさまらない。



フラワーとのやり取りで精神的に疲労が溜まったので、すぐに帰宅して心と体を休めたいがそうもいかない。



今日の放課後に鳥居さんと2人で文化祭について話さなくてはいけないからだ。

カースト上位の女子と関わるなんて、本当にどうしよう。

そんなことを考えてチラッと鳥居さんの方を向くと、目が合ってしまった。



「キモ」


リア充仲間に接する時とは違うトーンの低い声で罵られた。




あー、もう無理だ。これ。

これからどうなるんだよ……。










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