5話 ズルくても、あの頃に戻れるなら。
『フラワーさん、メッセージを送ってくれてありがとうございます』
誰かから僕とメッセージのやり取りをしたいと言われるのは悪い気はしない。
なので、早速フレンド申請がきていたので承認した。
『アオト君、そんな堅苦しく敬語なんて使わないで!』
『そう? ならフランクにさせて貰うね』
『うん! 親近感があっていいねっ』
余計に丁寧な言い回しをすることが無くなったので、自分の言いたいとが伝えやすくなった。
現実では到底ありえないな。
『因みに、お昼は何を食べたの?』
料理が好きというフラワーらしく、早速ごはんの話題を振られた。
なので、僕好みに味付けがされた凄く旨かった飯を思い出す。
『ピーマンの肉詰め』
『自分で作ったの?』
『いや、幼馴染に作ってもらったんだ』
『へぇー!(^^)! もしかして恋人?』
『違うw』
『そっか』
メッセージごしでもテンションが下がっているのが伝わってくる。
文章からして、フラワーさんはなんとなく女性な感じがする。
女性は恋バナが好きだから、恋人ではないと言ったことでテンションが下がったのだろうか。
『僕には勿体なくて釣り合いがとれないからねw』
『そんなこと無いと思うよ? その幼馴染はアオト君に好意を寄せてるかもよ??』
『それは絶対ない』
花は兄弟のように小さいころから一緒に育ったんだ。
向こうはきっと僕のことを異性としては意識していない。
『アオト君は幼馴染のことが好きなんでしょ!』
確かに僕は花のことが好きだ。
それは、兄弟も同然に育ったからだ。
異性としてかと聞かれると分からない。
でも、顔も知らないフラワーさんに細かく好きの種類を説明するのは面倒くさかったので、簡潔に返信した。
『うん、好き』
恋バナが好きなフラワーさんのことだから色々と聞かれると覚悟したが、そうはならなかった。
5分待っても、10分待っても返信が返ってこなかった。
もしかして、手が離せない用事でも出来たのかもしれない。
フラワーさんは仕事中の隙間時間とかに『シーマ』をやってるのかな。
まぁ、好きな時にメッセージのやり取りをするアプリなので返信が無くても気にすることはない。
匿名の相手だからこそ変に神経を遣わず、気軽にできるのがメリットなんだから。
『なら、ワタシが彼女になってあげるね!』
『というと?』
当然の流れのように彼女になると主張されたので、説明を求めた。
彼氏を探しているとはいえ、フラワーはどういう人間なんだ?
『ほら、最初に言った通り彼氏を探しているんだよね。でも、リアルではなくバーチャル彼氏が欲しいんだよ!』
『ますます分からない……』
『ネットゲームで男女がパートナーを組むように、シーマ上で恋人ごっこをして欲しいの(*^▽^*)』
『どうしよう』
『アオト君にもメリットはあるよ! 少しやり取りをした感じ、女性慣れしていないでしょ?? だから、恋人ごっこをすることで女性の扱いに慣れると思うんだ(>_<)』
フラワーさんが指摘する通りだが、何故か素直に認めたくないな。
もしかして、僕にプライドが残っていたのか……。
『シーマ』は匿名だからこそ常識の皮を被る必要はなく本性をさらけ出せる。
僕はそのためにアプリをインストールしたんだ。
だから___
『わかった。フラワーの彼氏になる!』
そして、友達すら居ないのに彼女が出来た。
隣のクラス
「ねぇ、花。さっきからスマホを見てどうして顔を赤くしてるの?」
「別に……何でもないよ?」
「変な画像でも見てるんでしょ! 花は欲求不満なのかな(笑)」
「うん、そうなのかも……」
「いやぁー、やっぱりか! って、えええ!!」
「今のなしで(笑)」
「いやいや、聞かなかったことにはできないでしょ!」
でも、欲求不満なのは半分当たっている。
友達に言われるように『シーマ』でアオにそんなことを言われたら、ワタシは歯止めが効かなくなる。
昼休みにアオのスマホをバレないように取った。
恋人みたいに「あ~ん」をさせていた時、動揺すると視野が狭くなるアオの胸ポケットからスマホを取るのは簡単だった。
もちろん、目的はアオの『シーマ』のアカウントを知ることだった。
そして、フラワーとして『シーマ』でアオとフレンドになろうと決めた。
アオも相手がワタシと分からないなら、昔みたいに素でコミュニケーションを取ってくれると思った。
このことは登校中にアオが『シーマ』をやっているのを見た時から考えていたことだ。
(ズルい女と思われてもいい。アオと昔みたいに戻れるなら手段は選ばない)
中学生の時、アオがワタシを遠ざけるために故意にキツイ言動を取ったことは今なら分かる。
なのに、当時のワタシは冷静な判断が出来なかった。
アオを庇っていたワタシは女子グループから陰湿なことをされ始めていたせいだ。
あいつらは絶対に許さない。
そして、正しい選択を出来なかったワタシ自身も憎い。
(だから、もう二度と失敗はしない。アオ、ごめんね。こんなあざといワタシで……)
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