4話 新しい友達


当初の予定通り、花とは時間差を置いて登校した。

だが、今はすでに3時間目の授業中なのに勉強に身が入らない。


なぜなら、花に昔みたいに話しかけてしまったことが頭から離れないからだ。

これじゃ、ダメだ。

僕と関わると花に迷惑を掛けてしまうかもしれないのに。


中学時代に僕が虐めの対象になった際、男子友達にまで被害が及んでいた。

友達は僕から離れたことで難を逃れたが、花は最後まで僕から離れようとしなかった。


なので、女子グループから目を付けられていた。


大事な幼馴染の花だけは守りたかった。

だからこそ、花に嫌われるような言動を取り続けて僕から距離を取らせた。



「近寄るなよブス」、「いつもくっついてきて迷惑しているんだよ」などと今思い返しても胸が痛くなることを何度も言った。


そして、想定していたように花も僕から離れていった。

これで二度と昔みたいな関係には戻れないし、そうなる資格はないと覚悟をした。


なのに、花は高校に入ってから僕に接するようになった。



気が付けば昼休みになっていた。

チャイムが鳴ると、僕は自分の席にいることが出来ない。


おかしな話だが、後ろの席のリア充4人組に他のリア充が寄ってくるからだ。

当然椅子や机が足りなくなる訳で、前の席にいる僕の席を奪われる。

直接「どけろよ」などとは言われないが、目線で強制退去を促される。


席を外し、廊下へ出る際にリア充女子の弁当が見えた。

中には凄く珍しいパイン入りのゴーヤチャンプルが入っていた。

ララル以外にそんな珍しい食材を弁当に入れる人が居るんだな。

あとで、ララルに教えてやろう。




さて、教室を出たものの何処へ行くかは決まっていない。

廊下で考えていると背中をポンっと軽く叩かれる。


「アオ、ごはん食べよ!」

隣のクラスの花だった。

僕のためを想っての行動だろうが、これはよくない。

僕みたいなボッチに関わると花まで浮いた存在になりかねない。


「僕は独りで食べます」

必要最低限の言葉を投げ、その場から離れる。

しかし、足音がずっとついてくる。


「あの、僕は断ったつもりだったんですが」

ハッキリと昼食の誘いを断ったのに花が付いてくる。


「うん、元々許可を取るつもりなんて無かったからね」


「僕と一緒にいると筒井さんの評判が落ちますよ?」


「それを気にしているなら問題ないよ。だから、一緒に食べようよ」


「僕が気にするんです」


「中学の時はアオの優しさに気づけなかったけど、今は分かるから……」

真剣な目で真正面から僕を捉える。

人の視線が苦手なので思わず目を反らすと、花は悲しそうにする。


「ごめんね。アオをこんなにしちゃって」

そして、花は謝罪する。


「筒井さんは悪くないです。だから、罪悪感で僕に構わなくていいです」


「ちがう! ワタシは前みたいに一緒に居たいだけ!!それ以上は望まない。望む資格は無いから……」


昔から花は頑固だった。

これ以上ここで話し込む方が周囲に注目される。

だから、今回だけ花の提案を受け入れよう。


「分かりました。ただし、一緒に昼食をとるのはこれっきりです」


「……」


「あの、返事が無いんですが」

これっきり僕に構わないと約束を取り付けようとしたが、『プイッ』と

そっぽを向かれてしまった。




いつまでも廊下に居ると目立つので、花が入っている料理部の部室で昼食を取ることにした。

部室には誰も居ないので二人きりだ。



「はい、あーん」


「いや、なにしてるんですか?」

席は山ほど空いているのに、正面ではなく隣に座った花から口を空けるように催促される。


「ほら、アオの好きなピーマンの肉詰めだよ?」


「そこじゃなくて、どうして恋人みたいなことをしているんですか」


「前みたいに戻りたいって言ったじゃんっ」


「前からこんなことはしていなかったですが」


「そうだっけ(笑)」

花が当たり前のように前の距離感で会話をするもんだから、思わず僕まで以前のような態度になってしまいそうだ。


とりあえず、僕も昼飯を食べようとコンビニのパンを開けようとすると「待った」を掛けられた。


「はい、これはアオの分」

花と色違いの青色の弁当箱を差し出される。


「え、僕にくれるんですか?」

受け取るべきか悩んでいると、先にこの空気に耐えられなくなった花が催促してくる。


「食べさせるのは断られたけど、弁当まで拒否られると流石に傷付くんだけどな」


「あ、ありがたく受け取らせていただきます」

これくらいは別にいいよな?と自分に言い聞かせて弁当を受け取った。

早速、食べようとしたが施しを受けたままだと気分が悪い。

花にお礼をしないとな。


「飲み物買ってきますが、何がいいですか?」


「じゃぁ、イチゴオレ!」

僕が飲み物を買うことを提案すると分かっていたかの如く、間髪入れずに返答してきた。

やっぱり、僕が取る行動は全て見透かされているようだ。

花なら不思議と嫌な感じはしない。




イチゴオレは自動販売機には売っていないので、購買まで足を運んだ。

飲み物を選びスマホのタッチ決済をしようとした時、スマホが無いことに気づいた。

とりあえず飲み物は現金で会計を済ませたが、スマホ依存症の僕は冷や汗が止まらない。


ここに来る途中、もしくは自分の机の中に忘れてきたのか必死で思い返す。

料理部の部室から購買までの道のりを隈なく探しながら戻ってきたが見つからなかった。



戻ってきて花にイチゴオレを渡すと、「はい、これ」と花からスマホを差し出された。



「あぁ、良かった。見つからなかったらどうしようかと思った」


「椅子の下に落ちてたよ? 絶対焦りながら戻ってくると思った(笑)」


「制服のポケットは落としやすいですかね。場合によっては対策しないといけないです」


「まぁ、今回はたまたまでしょ。それよりイチゴオレありがとねっ」

その後も花のペースに乗せられたまま昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。

二度と花と今みたいな時間を過ごせないと思っていたから、あっという間に感じるくらい心地よかった。



そろそろ今の僕の日常に戻ろう。




「じゃぁ、僕は先に戻ります」


「うん、またね」

それに返事をすることは出来なかった。




教室に戻り、先生が来るまでの少しの間の時間で『シーマ』を起動させる。

あれ、なんでプロフィール画面になってるんだ。


朝からトーク画面を開きっぱなしだったので、最初にプロフィール画面になっていたことに違和感を覚える。


(あ、新規のメッセージだ!)

ララルさんからのメッセージが来たことで、違和感に対する考えが吹き飛んでしまった。

どんなメッセージだろうかと高揚感を感じながらトークルームを開いた。




『はじめまして、フラワーです! 突然の連絡でごめんさいっ。彼氏を探していたので連絡してみました!(^^)!』




僕に新しく『シーマ』のフレンドが追加された。

てか、彼氏を探しているってなんだ?









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る