第23話:ぼっちによる、ぼっちの他己紹介
「えーっ、というわけで、こいつも勉強合宿に参加します」
放課後の部室。部室にいた神崎と嵯峨山に事情をあらかた説明し、俺は鳴岡先生に命令されるがまま、南野を2人に紹介していた。
まさか自分のプライベートスペースで女子に女子を紹介する日が来るなんて……高校生活が女子女子した雰囲気になってきて結構絶望である。
絶望の傍ら、紹介に預かった南野が自己紹介を始める。
「み、南野……美波、です。え、えー、に、2組、です。す、好きな言葉は……へ、平和、です」
どこぞの予備校のCMみたいな自己紹介をしてのける南野。生まれたての子鹿みたいにガタガタと震えながら話す姿はさすが信頼と実績の陰キャコミュ障だ。
……それよかお前、好きな言葉が平和って絶対嘘だろ。絶対「死ね」だろ。
「よ、よろしく、お、お願いします……」
言って、角度15度くらいの高速お辞儀を数回行う南野。陰キャによく見られがちな『とりあえずペコペコしてれば良いよね……?』的な思考回路に基づいた、非常にディフェンシブな挨拶だ。
ちなみに俺はむしろ逆で、陽キャに話しかけられたら「鬱陶しいな。死ねよ」って視線で訴えていく非常に攻撃的なスタイル。
圧倒的な攻撃力を前に、クラスに必ず1人はいる誰にでも話しかけるフレンドリーな奴も話しかけて来なくなったぜ! 俺マジ最強。
「わ、私は1組の神崎藍! 今回はよろしくね、美波!」
「は、8組の嵯峨山岬と申します! 新聞部です! 南野さん、よろしくです!」
そんな南野の緊張をほぐそうと、神崎と嵯峨山は通常比2割増しで明るく振る舞う。さすがはコミュ力お化けの陽キャども。神崎に至っては初対面なのにサラッと名前呼びだ。
……だけどこういうのって陰キャには逆効果なんだよな。コミュ力の高さを見せつけられて絶望するというか混乱するというか、こんな距離の詰め方をされても困るというか。
「うぇ、あ、あ、あわわ……よ、よろ、しく……」
……ほら、混乱してる。しかも目の焦点合ってないし。
これ以上混乱させては場が荒れて面倒になる。不本意ではあるが、会話のベクトルを俺に向けさせることにした。
「ちなみにこいつは去年俺と同じクラスだったからわりと頭良いぞ。特に文系科目とか」
「なにその上から目線。学年7位ごときが偉そうじゃない?」
「葛岡さんがそれ言う必要あります?」
「し、死ね……」
「お前の好きな言葉《平和》じゃなかったのかよ……」
まぁいい。別に死ねとか言われ慣れてるからノーダメージだ。効かないねぇ! 俺のハート、ゴムだからっ!
「でもあの葛岡君が女の子の知り合いとはねぇ……フフッ」
とか考えていたら、神崎がニヤニヤしながらこちらを覗いてきた。
この笑顔には分かりやすく悪意を感じる。
……これはあれだ、ラブコメに出てきがちな、知り合いと聞けばすぐに恋愛方向に解釈を持っていくウザい奴の笑顔だ。
『ねぇねぇ、今の子は?』
『ただの知り合いだよ、クラスメイト』
『えー? 本当にぃー? なんかただならぬ雰囲気があったけどぉー』
『本当だって、それ以上もそれ以下もないから』
『うっそだぁー』
みたいな。ああいう何もないのに関係性を見出そうとする奴マジで鬱陶しいよな。
この手の茶々の厄介なところは、否定すればするほど逆効果なところだ。
なので俺はあくまで神崎の言葉だけに反応を示すことにした。
「そりゃ去年同じクラスだったんだから知り合いくらいにはなるだろ」
「まぁ、そりゃそっか。1年も同じクラスだったら──」
どうやら俺の言いたいことはご理解頂けたようだ。
「──常習的に人間観察してる変態さんだし、美波のことを知っていても当然だよね」
……前言撤回。全然言っている事を理解していなかった。
「ちょ、ちょっと寒気が……」
「うぇ⁉︎ へ、変態っ!」
そして両腕をさすりながら軽蔑的な視線をぶつけてくる嵯峨山と南野。
またしても燃え広げられてしまった誤解の炎。そろそろこいつらを名誉毀損罪で相手取っても良い気がしてきた。間違いなく勝てると思う。
……まぁ、今はこいつを相手取っている場合ではないので近い将来訴えてやるとして。
とりあえずはこいつらの顔を合わせたことだ。俺があとこの場においてやるべきことはNINEの交換だろう。
友だち登録を拒否っていた分、皮肉ではあるが友だち登録には詳しい。俺はスマホを取り出しつつ、こいつらに言ってのける。
「んじゃ、あとで家の住所とか送るからNINEのQR開いて」
「えっ、なんでNINEのQR?」
「連絡先交換するから」
「「「……えっ?」」」
期せずして訪れる静寂。
時が止まったような、そんな錯覚さえ覚えさせる静けさ。うっかり「俺ってヘブン◯タイム使えたのか……」とか思ってしまった。
……そんなわけない。指鳴らしてないしな。
「な、なんだよ……」
言いながら顔を上げると、俺を心底本気で心配するような3人の視線とかち合った。
「葛岡君がNINEの交換……もしかして風邪? 頭大丈夫? 今日は早く帰った方がいいよ」
「神崎さんの言う通りです葛岡さん。いきなり奇行に走るなんて……それに変態の葛岡さんが奇行に走ると社会的に死ぬ可能性があります。自分の保身のためにも早くご帰宅を」
「く、葛岡……お、お前、葛岡だよな……? え、エイリアンじゃない……よな……?」
よく分からんが各々から体調を危惧するコメント──に見せかけた悪口を言われた。
……揃いも揃って舐めやがって。ここぞとばかりに悪口を重ねんな。
「俺は馬鹿じゃねぇから風邪引いたら自覚症状あるし変態じゃないし、そもそもエイリアンに身体を乗っ取られてなんかないわ! いいか、これはなるお……ごほん。至って理路整然とした思考で下した判断だ。だからほらっ……な、NINEの交換っ!」
そこまで捲し立てて、俺はスマホを開く。
そういえば鳴岡先生にパスコードバレてたから変えないとな、と思いつつNINEを起動し、3人にホーム画面を見せる。
──ピコンッ。
と同時に、メッセージの受信を知らせる通知音が鳴った。
送り主のアカウント名は《神村 球尊》と表記されている。
「……あれっ、愛しの神村さんから今メッセージ来ましたよ? 先見たらどうですか?」
「別に愛してねぇけど……なんだよこんな時に」
嵯峨山に促されるまま「1」と表記されているトーク画面を開く。
👤神村 球尊
📢『別に行ってもいいけど、大丈夫?』
「神村さんからも心配されてるじゃないですか……やっぱり帰りましょう、葛岡さん」
「だ、だな……」
「っ⁈」
……もう、帰ってやろっかな。こいつらと全然話が噛み合わねぇし。
日本語って難しいなと思いつつ、俺はそっと神村のアカウントを友だち追加した。
……ちなみに、どうやってあんな中二病な文章を正確に意訳できたのかは、1日中考えてみたが結局分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます