幕間③:テストは3点、笑顔は満点
その日の夜。
あれから結局帰らずに根気強く嵯峨山に勉強を教えることにした俺は、現時点でどれだけ勉強ができるのか……否、どれだけ勉強をサボってきたのかを確かめるべく、ちょうど図書館に所蔵されていた簡単なテストを解かせることにした。
科目は英語、レベル的には中3基礎レベル。白鷺台生じゃなくても普通の高校生ならば誰もが満点を取れるような難易度の問題だ。
そして俺は今、自室の勉強机でそのテストの採点をしているところなのだが……。
「なんでこいつ白鷺台の入試突破できたんだよ……」
自室の机に項垂れながら、俺はそんな言葉を漏らした。
確かあいつは豪運体質だとかほざいていたが、それを差し引いたとしても豪運だけで受かったのが不思議なレベル。うっかり「偏差値70って大したことねぇな」とか思っちゃう。そんなはずはないんだが……うん、ない。絶対ない。
となるとやはりズルしてここに入ったとしか考えられん。
……そういえばこいつの家は開業医だとか言ってたな。
『医者といえば医学部、医学部といえば裏口入学』みたいなマジカルバナナが成立しがちだが……やっぱり裏口か。
あるいは『校長といえばジジイ、ジジイといえばエロい』みたいなマジカルバナナが成立する路線を考えると、身体で入った説もあり得る。だってあいつ無駄におっぱいおっきいし。……何やってんだよあのエロ校長。鳴岡先生もっとしばき倒せ。
閑話休題。
いずれにせよ、こいつの頭は致命的に暴力的に壊滅的に弱かった。
それはこいつの回答内容を見れば一目瞭然である。
例えば英語の問題。
問:次の英文を日本語で訳しなさい。
英文:Deepa was born in 2000.
答え:ディーパは2000年に生まれた。
……うん。至極簡単な英文和訳だ。
で、嵯峨山の回答はどうだったかというと。
英文:Deepa was born in 2000.
嵯峨山:出っ歯さんはズボンに2000円入れた。
「致命的過ぎる……」
英語をまったく知らない小学生ならまだ可愛げがあるが……高2でこの訳は鳥肌もんだぞ。
……つーか、なんで出っ歯さんに金盗ませてんだよ。勝手に犯罪者に仕立て上げるな。
「あぁ……泣けてくる」
点数が低いのならまだしもこんな回答じゃ救いようもねぇ……しかもこんなのが回答用紙中に散らばってるし……。「嵯峨山半端ないって! あいつ半端ないって‼︎」ってロッカールームで泣き出したくなる。
しかし協力関係を築いた手前、すぐさま解消ということにはできない。昨日の今日で「やっぱ無理!」はさすがに俺の勝者としてのプライドが許さない。
……要するに、どのみちこいつの面倒を見なきゃいけないってわけだ。
「まぁ、赤点取らなきゃいいんだもんな」
言っても、今回のタスクは嵯峨山が赤点を回避すること。何も満点取れとか言われているわけじゃない。平均点の3分の1、だいたい20〜25点位取れれば依頼はオールクリアだ。
だったらそのために俺が今すべきは、さっさと丸つけを終わらせてプランを考えること。こいつの答えにいちいちびっくりさせられていたって仕方がない。
「丸つけ、進めるか……」
……そして採点を終えて。
「さ、3点……マジか」
呟くととともに、ふとなぜか嵯峨山の満面の笑みと、有名すぎるアニソンのワンフレーズが脳裏に浮かんだ。
……テストは3点、笑顔は満点らしいです。
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