13話

 そうして一曲、舞妓や芸子集が演奏を終えると――クズと大精霊たちは、観ていたアウグストや傭兵団幹部、東郷や木村たちの拍手に手を振り応えて、席へと戻った。


「――いやぁ~。楽しいじゃねぇか! やっぱ酒、女、笑顔! これだよ、これ! なぁ東郷、にいむ――木村!? お? おいおい、2人とも酒が止まってねぇか?」


 クズは酌をしてくれるお嬢さんに「あ、これはどうも! お姉さんのお陰で酒が数十倍は美味くなります」と一気に飲み干す。


 そうして闘志を燃やすのが――アナとマタだ。


 2人は酒瓶を手に持ち、クズの左右を囲む。

 その空気を察した白塗りのお姉さんは――東郷と木村、両者に何時でも酌が出来る位置へと移動する。


「ふむ。クズ殿は神々とも仲が良いのか」


「あ? あ~大八洲では精霊を神とか呼ぶんだっけか?」


 ――俺たちを崇めるとは、見所のある人間たちだ。何処かのクズ野郎みたいに、人を起爆装置扱いする奴とは違う。ほら、東郷と言ったな。俺が酌をしてやろう。


「おお!? こ、これはかたじけない! ま、まさか火の神様に酒を注いでもらえる日が来ようとは……。オ、オイも返杯つかまつる!」


 ――うむ! 美味いな、大八洲の酒ってのは独特で美味い! 効くな!


 サラマンダーはどうやら、東郷と話が合うようだ。


 元々――精霊は酒と宴が大好き。

 未知の文化での宴会、酒と言う事もあり――クズに酷使され続けて来た精霊も楽しそうだ。


 東郷としても、神として崇めているような畏れ多い存在に酒を注がれて感激しているのか、水のようにガパガパと酒を飲んでいく。


「クズさん。私はね、どこぞの無骨な『武士は食わねど高楊枝』を気取る藩とは違うよ? クズさんが求める傭兵としての安定した雇用、高い給金。貿易で儲けてる長門藩なら、クズさんの期待に応えて見せましょうとも」


「おいおい、マジか!? 良いねぇ! やっぱ傭兵だろうと、命あっての物種よ! 幕府だか御庭番衆だか知らんが……俺の義妹を早く返せってんだ! 宴会でもしなきゃやってらんねぇよ!」


 ――木村とやら。クラウスは背負う物が多いのに、このように無責任を装う言動でクズを気取る男でのう。本当は見知らぬ外国で、どうすれば仲間を失わずに家族を救い出せるかと苦心しておるのよ。妾からも、仲良くしてくれるよう頼むぞ。


「お、おお!? こ、これは水の神様。……その徳利。ま、まさか、私に酒を注いでくださると?」


 ――うむ。妾との酒は飲めぬか?


「い、いえいえ! まさか! 畏れ多いだけでして……喜んで、いただきます!」


 木村はウンディーネから注がれ、返杯し……。

 白塗りのお姉さんからも、東郷と木村の2人は酒を次々と注がれていく。


 クズはと言えば――。


「――クラウス。私にもお酒ちょうだい」


「義兄様、私も」


「おうよ! この国の法律だと15歳から飲めるからな! 郷に入りては郷に従え! マタも飲んどけ飲んどけ!」


 左右を固めるアナやマタと、お互いに杯へ酒を注ぎ合い――クズは酒に舌鼓を打っている。


 アウグストは静かに酒と宴を楽しみつつ、東郷との仲を深めている。

 チチやナルシストも、芸を披露してくれる女の子たちに動きを教わったり、追加で美味い飯を頼んだりと実に楽しそうだ。


 品のあるお座敷遊びとは少し離れているが、それはクズたちが大八洲外の人間だからだ。


 宴に対するスタンスが、根本から違うのは仕方ない。


「いやはや……。クズ殿、ワイは不思議な男じゃ。この木村を連れてきた時は、どこぞの間者やもと一瞬疑い申したが……。どうにもクズ殿からは、そのような思惑を感じん」


「そりゃこっちのセリフですよ、東郷盛道さん。……長門藩はアンタらにやられた恨み、忘れる訳もなない。私もクズさんに一杯食わされたかと、疑ったんですがね」


「はぁ!? 一杯食わせる!? 今日、食わせてもらってるのは俺たちだぞ、木村! なんたって、今日は東郷の奢りなんだかんな! 奢られ歓待される。ホストもゲストも、宴を盛り上げるには協力しなきゃならねぇんだぞ!? な~にを険悪そうにしてんだ!? そんなんじゃ折角の宴がしけちまうってんだ!――ねぇ、お姉さん?」


「そうどすなぁ。喧嘩の白黒は楽しいゲームで付ける。それがお座敷のルールってものどすね」


 ゲームと聞いたクズの目が――嬉しそうにキラリと光った。

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