11話
「――厄介払い、か。そうだな、アウグストの爺?」
「うむ。そう見るのが自然だろう。……ワシらとて、かくまっていたエロディア・ヴィンセント嬢の情報収集を諦めた訳ではなかった。クラウスがもし存命なら、それがヘイムス王国王都へと招き寄せる最大の武器となると、血を重んじる王は理解していたからな」
「そんで、実際に俺は生きていると分かった」
「偽名でギルバートやらクズと名乗っており、顔付きから態度まで……。戦闘能力以外の全てが別人のようだから、アサシンギルドとしても確信に至るのには時間を要したのだろうがな」
「うるせぇぞ、お爺ちゃん。俺はクズと言う通り名を受け入れるし実際にクズ言動もするが、それは俺が悪いんじゃねぇ。子供は環境で成長する。つまり俺をクズにした世の中がクズ。よって俺は一切悪くない」
「「「クズだ」」」
クズの『俺は悪くない、世間が悪い』と言う主張に、幹部一同が声を揃えて口にした。
流石は家族同然の傭兵団、一糸乱れぬハモりである。
「そんで、いよいよ俺が生きているとなれば――エロを攫ったアサシンギルドへ、血を重んじるヘイムス王国の怒りや俺の優しい制裁の刃が向くかもしれない。そう察したアサシンギルド上層部がエロへ偽情報を流し追えないような国外で処分されるよう仕向けた、と」
「うむ。そんな所だろうな」
「はぁ~……。如何にも有りそうな話だ。大陸に帰ったら、ちょっと俺の精霊が悪さしちゃいそう」
軽口こそ叩いているがクズの目には――強い怒りの炎が灯っていた。
囲炉裏の中央で室内を照らす火より余程、激しく燃え盛っている。
「まぁ~おたくらが大陸に戻ってからの件は置いといて、だ。おいらが調べた限り、それからエロディア・ヴィンセントは拷問の末――獄中で死んだ事になっている」
「……それなら俺が見たエロは、あの瘴気みたいなもんを宿す根源――何でもありの精霊か何かが作った亡霊だとでも言う気か? おい、勝」
「まぁまぁ。そんな怒りの炎をメラメラ燃やしてちゃ~話が進まないよ? 消火活動をしながら会話するんじゃ、効率が悪いったらありゃしねぇ」
勝が胡座を崩しながら、飄々と言う。
ひょうきん者を演じるその態度に、今のクズとしてはむかっ腹も立つが――言っている事は正しいと納得した。
このムカついた分の腹いせは、契約でわざと濁してある神器に次ぐ程の宝と言う部分で上乗せしてやろう。
直近で言えば生活活動支援の為に使用する飲食を多く豪勢に使う事で、勝の懐を痛めてやることでトントンにしてやる。
大八洲の酒に強く興味はあるが、強行軍に差し支えるからとアナやマタに止められているから――西都とやらに着いたら覚悟しろ。
クズはそう心に決め、顎でクイッと先を促した。
「公式にはエロディア・ヴィンセントは獄中死した事になっている。だがな、時期を同じくして――青い髪をした、大八洲にはない体技を使う忍びが増えてるんだよ」
「忍びだと? なんだ、そりゃ?」
「ああ、大八洲では忍者とも呼ぶ。そちらさんの国だと、アサシンかな?」
「忍ぶ者で忍者か。分かりやすいじゃねぇか」
「だろう? 特に豊川幕府――大八洲の国々を纏める幕府に所属する忍び集団は、御庭番衆と呼ばれている。おいらが今、話せる情報はここまでだな」
(今……な。成る程。何処に居るかだとか、俺らが勝から離れかねない情報は隠した、上手い情報提供だ。何処までも喰えねえ男だ)
「要は御庭番衆ってのは、国王直属の暗殺やら偵察集団だと……。おい、勝。3つ聞きたい事がある」
「お? なんでい? おいらに答えられる事なら、答えるぜ?」
お茶を啜りながら、勝は景気よく答える。
勝のペースに乗らず、クズは気になっていた質問を口にする。
「1つ目は、エロはなんで出島に居たのかと言う件。そして2つ目は、大八洲の国々と度々表現していることについて、だ。この国は大八洲じゃねぇのか? 国々とはどう言う事だ?」
一気に全ての質問をしても回答側も受け取り側も困るからと、先ずは2つ尋ねてみる。
それを聞いた勝は、「あ~」と視線を右上に向けて考える。
「まずエロディア・ヴィンセント嬢が出島に居た理由だが……。何とも言えねぇわな。御庭番衆に指示が出来るのは、将軍である豊川秀茂様のみよ。おいらにも御庭番衆がどう動くか、どこに居るかの理由は分からねぇ。唯、な……」
言葉を選ぶように、勝は慎重に答え始めた。
「あのエロディア・ヴィンセントを纏う黒い靄……瘴気って言ったか? ありゃ~将軍、秀茂様が纏うオーラと一緒だ」
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