10話

「ほう? あんたは大八洲人と似た考えをするんだねぇ。武人は戦場で死ぬが誉れってか?」


 勝は興味深そうにアウグストを見詰め、顎を擦っている。


 自分の言いたかった事を、『大八洲人と似た考え』と言われたアウグストは、嬉しそうに勝を見返す。


「その通りだ。勝殿は武人の心得をよく理解しているようだ。……その油断ならぬ強者特有の物腰、腰に差した剣から――そなたも武人としての死に様と生き様を理解しておられるようだな」


 それは自分の同族、同胞と出会ったかのように嬉しそうな言葉であった。

 だが勝は、アウグストの希望に反し――。


「――はっ! おいらも一応は武士だが、そんな誇りや誉れは犬に喰わせちまえと思ってるよ。死んじまったら、大事も成せないからな」


 そう吐き捨てるように言い放った。


「……そうか。ワシの思い違いだったようだ」


 アウグストは胸中で残念がると同時に、『大八洲人らしい大八洲人』とやらに出会えば、己の考えに同意してくれる人も居るだろう。

 そう、これからが楽しみになった。


 クズは気持ちが少し落ち着いた、己の師――アウグストの変化を読み取り、高等部をガシガシと掻きながら話を進める。


「あ~……。まぁ隠居寸前の老いぼれ爺の世間話に付き合ってくれるのは有り難いんだがよ? 高齢者イジメを俺以外の奴がやるのはよくねぇな。俺たちを雇う、生活活動支援すると言ったからには――あんたの方の準備は出来てんだろ?」


「ほう、ならこの交渉は――」


「――ああ。条件を守るなら受けてやるよ。あんたが政の中心を奪うための傭兵雇用依頼を、な。あんたが条件を守るなら、だが」


 あくまでも慎重に。

 言葉の1つ1つで、この勝と言う男にはやり込められそうだから、と。


 しかしこの見知らぬ大八洲で目的を遂げるには現状、勝の提案に乗るしか以外に手はないと、諦め――交渉を纏めた。


「よっしゃ! 雇用契約成立だ。正式な書類も後で用意するが、先ずは信用だな。おいらはあんたら失落の飛燕団を信じて一緒に国を変えようってんだかんな。そんなら滞在先の西都へ移動する道すがら――エロディア・ヴィンセントって子がこの国にどうして来て、どうして居たか知る限りの情報を提供しようじゃねぇか!」


 この出島で休めるのかと思ったが、どうやら違うらしい。


 勝は「出島は交易専用の諸外国との玄関口だ。こんな政府の監視の目が光る場所で、おいらの用心棒が40人以上もうろついてたんじゃ叛意ありと疑われちまう」と説明した。


 そうして一同は、勝の用心棒と言う身分証明をされ――出島を後にする。


 海路が終わった後は、再び陸路と船旅を兼用して大八洲国内を移動するらしい。

 街道に出て暫く歩いた先にあると言う『西都』目指し行軍を進める。


 時間としては、概ね1週間程度だと言う。


(まぁ、それが依頼をこなし――エロを取り戻す事に繋がるなら、仕方ねぇ。鎖国なんかしてる引きこもり国家が、王都や政治に重要な都市の傍へ交易用の島を設置する訳ねぇかんな)


 徒歩でそれだけ移動するのは、傭兵団としては慣れたもの。

 船上で大人しくしているよりマシかと、大八洲の地を見物しながら街道を進んで行く。

 山々では草木が色づき、爽やかな風が吹き抜けるのが、心地よさを感じさせた。


 夜間は旅籠と言う大八洲なりの宿に泊まる。


 そこで勝は――約定通りにエロディア・ヴィンセントの情報を語り始めた。


 椅子に座るでもない。

 畳と言う大陸にはない床材の上に胡座をかきながら、だ。


 勝やアウグスト、そして幹部たちは1つの部屋に集まり、囲炉裏を中心に円を描くように座る。


「エロディア・ヴィンセントについて、おいらが調べられたのは……大陸からの密偵を捕らえたって幕府の記録からだ」


「大陸のアサシンギルドが情報収集の為に大八洲へ向かわせたエロが、幕府に捕まったって所か。……なんだってこんな引きこもり国家の情報をアサシンギルドが欲しがるんだ。よりにも寄ってエロが大八洲なんかに偵察へ出る任務を言い渡される理由も分からん」


「ああ、それなら当時の取り調べ帳に書いてあったぜ? どうやら、『自分の義兄がこの国に落ち延びている』と聞いた。それが大八洲で密偵をしていた理由らしい。……どうにも、きな臭ぇとは思わんかい? おいらはエロディア・ヴィンセントが個人的に偽情報を掴まされ、そのギルドとやらの指示に関係なく大八洲へ来たと踏んでいるんだ」


 勝はエロが尋問で話した渡航理由に納得が行ってないようだ。

 それはクズとしても同様の思いだった。


「そうだな。アサシンギルドが情報収集の為にと指示するにしては、おかしすぎる」


「それはそう。姉様が組織としての理由じゃなく個人的理由で動いてたのは変。ギルドが指示を出したなら、ギルドにも利がある活動理由を喋らなければ不自然」


 2人の兄妹は、そう結論付けた。


 クズが考えるに、この件は――。

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