3話

「そうかそうか! いやぁ、こうして大八洲へ向かう事態も見込んでチチを助けたんだよ。――そんで大八洲ってどんな感じだ?」


 少しでも安心材料になればと、クズはチチに尋ねる。

 若干調子に乗っているのは何時もの事だから、チチもアナも気にしないで流す。


「ん~。大八洲人は、大陸の人とちょっと違う気質かなぁ? ぼくの父さんは魂刀も打てる鍛冶士の家系なんだけど、凄く頑固な職人気質です! それ以外にも武士とかは人の首を取って持ち帰ることで手柄にするし、重大なミスや恥を晒すと腹を切らされるのです! それが名誉ある死に方だとか言って!」


「はぁ!? チチの親父は置いておくとして、敵の首を斬って持ち帰りミスで腹を切る!? 訳が分かんねぇぞ!? 大八洲人の頭は大丈夫なのか!?」


「それが当たり前の国なのです!」


「……やっぱトンデモねぇ国じゃねぇかぁあああ! とんだ野蛮人国家じゃねぇか!? 畜生、こんな少数で来るべきじゃなかった! ヘイムス王国全兵力を投入させておけば……」


「ぼくの祖国を侵略はしないでよ!? ぼくを売った格闘技道場は潰しても良いけどさ!」


 チチが若干、慌て気味に言う。

 クズは冗談の中に本気が混じり、無理と思われた事でも本当にやるから――気が気じゃないのだ。


 実際、極めて強力な精霊を駆使した剣術や錬金術を用いた姑息な戦闘でドラゴンを討ち果たす姿を見ているから余計に。


「くそぉ……。そんなイカれた国で俺の義妹が思春期を過ごしただと!? もしも歪んだ成長をしてたら国ごと歪めてやるかんな!?」


「あははぁ~……。クズ団長に歪んだとか言われると、ぼくも大八洲人として傷つくなぁ。うん、みんなの代わりに言うと――鏡見て出直して来い! そんな感じだね!」


「あ~あ~! 今日もアンチがピーヒョロロとうるせぇ!」


「それは港にいたトンビなのです! 今、その辺を飛び回ってるのはカァカァ鳴くカモメだね!」


「どっちも鳥肉には変わりねぇよ!」


「食べ物前提!? あ、でも……そう聞いたら美味しそうなローストチキンに見えて来たような……」


 相も変わらず、食い意地が張っている。

 それもその筈でチチは怪力というギフトの代償に、燃費が悪い体質なのだ。


「大八洲人はなんでも食い尽くしそうだな!? おい、まさか人間を喰ったりはしねぇだろうな!?」


「さ、流石にそこまでは食べないのでっす! 精々がバッタを煮て食べたり、生の魚を食べるぐらいしか違いは――」


「――想像しただけでヤベェじゃねぇか!? 腹壊すだろ!? 聞けば聞くほど大八洲の印象が下がる! こっわ! 大八洲人、マジで怖いぞ!?」


 チチから得た情報で、中途半端に恐怖が募った。


「うぅ~違うんだよなぁ! 本当、良い所も沢山あるのに! 伝えきれない、このもどかしさががが!」


「え、良い所を伝える気が合ったの? 俺はチチこそが大八洲の一番のアンチじゃねぇかと思ってるんだが?」


「違うんだってばよぉ! ほら自然が豊かで……」


「田舎って事だな」


「し、四季と言う気候が4つに分かれてて、それぞれの季節にあった良いものがあるの! 雪景色、桜、熱い夏のスイカ、食べ物の実る秋!」


「服装選びが面倒臭そうな国だな。気候に合わせて衣装を変えないとで、無駄に金とスペースがかかる」


「か、刀って言う切れ味が凄まじい剣と似た独自の武器があるの! 魂刀って言うね、ぶわぁあああとなる凄い刀だって、昔は作れてたんだから!」


「その切れ味を使って敵の首を刈り取り、自分の腹まで切るんだろ? 能力の無駄遣い」


「か、漢字にカタカナ、平仮名の3つを組み合わせた言語を巧みに使った詩とかが美しいの! 炭を使って文字を書くと漢字が格好良い!」


「1つの国で、なんで3つも言語を使ってるんだ? 暗号なの? 国民ですら覚えきれてないんじゃね?」


「ご、ご飯が美味しくて――」


「――だからバッタやら生魚だろ? 素材の味に全振りの上、腹を壊しそう。チチ、いつも腹ぺこなのは愛嬌だが……。味覚がバグってんじゃねぇのか? 医者に診てもうか?」


「ぬ、ぬぐぐ~! ぼくの語る良い所をちゃんと聞いてよぉ! あ、着物は可愛くて直ぐに着たり脱いだり出来るの! 一説によると世界で一番裸になる迄が早い衣装とか――」


「――それは詳しく! 女性もそれを着るのか!? 着るんだよな!? なんだよ、ちゃんと良い所があるじゃねぇか!」


 やっとクズが鼻息荒く食い付いたが――チチとしては不純なエロい動機で、どうにも納得が行かない。


 思わずムムッと眉間に皺が寄ってしまう。


「ああ、もう! スケベな事だけじゃなくて、もっと他の良い所も聞いてよぉ!?」


「ああ、うっせぇうっせぇ! 今の所、着物以外は全てがヤバい国って印象だ!」


 クズはチチからの反論に聞こえない聞こえないと耳を手で塞いで煽り続け――怪力のチチが軽く戯れて、甲板から落ちた。


 大精霊であるウンディーネの波乗りで再び戻っては来られたが、能力と魔力回路の無駄遣いも良い所である。 


 チチと二人して船長に怒られつつも、船はドンドンと大八洲へと向かって行く――

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