3話

「ど、どういう……ことだッ!」


 震える握り拳、ギリギリと歯ぎしりを鳴らしてクズが問う。


「ひっ……。ち、違うのじゃ! 我とて本当は払いたい! じゃが、金山を調べ直したら……そもそも枯渇しておったのじゃ!」

「……は?」

「残っていた僅かな金も、クラウスの爆撃で溶けた! 価値のあるドラゴンの素材も全部ボロボロッ! 鱗や角、牙……全てじゃッ! それでもなんとか商人に売って六億を確保したんじゃッ!」

「あ」


 クズは思い出す。

 自らの爆発で、鱗を吹っ飛ばした。

 角はトドメの一撃でへし折り、牙もチチやアウグスト達によって折られていた。

 そのおかげでアウグストの命は助かったのだが――。


「ふざけんなよッ!? 契約は契約だろうがぁあああッ!」

「け、契約書には成功報酬と書いておる! のう、財務大臣!?」

「――え、あ……はい。このように……」

「見せろッ!」


 ドラゴンと戦った時よりも速い速度で、クズが債務大臣から契約書を奪いとる。

 周囲が「あれこそドラゴンスレイヤーの速度」、「全く見えなかったぞ」と戦慄している。

 傭兵団一同は苦笑しているが。

 そしてクズは自分の血判がべっとりと押された契約書の内容を再確認し――。


「ぉお……ぉおぅ……」


 へなへなと膝をつき沈み込んだあと――。


「ぬぅううううんッ!」

「――ああ、契約書が!?」

「クラウスよ、今さら破いても……報酬は変わらんぞ」

「ふざけんなよ!? ほら、俺って救国の英雄だろうが! 兵士に使う薬だって、こっちが負担したじゃぁん!?」

「うむ。今後、魔域側の捜索が進み新たな鉱山が見つかれば支援もできるじゃろうが……。無い袖は振れぬッ!」

「開き直ってんじゃねぇぞ愚王ッ!」

「また愚王と……ッ!」

「おお、何度でも言ってやらぁ! 一族郎党皆殺しにしてやろうか!?」

「クラウス、それだとクラウスも死んじゃうよ?」

「く……このケチ愚王と血が繋がってるなんて認めたくねぇえええッ!」

「そんな言わんでも……。な、ならば! 鉱山を見つけてくれれば、報酬の代わりとして大八洲の案内にアウグストもつけてくれる! 余命も伸びたそうだしのう!」

「あんな爺なんざ連れてってどうするってんだ!? 団の平均年齢が上がるだけだろうが!」

「あれでも我が国の英雄じゃ! これは代わりに出す超好条件の依頼じゃッ! 鉱山を見つけるだけで大金に英雄が借りられるのじゃぞ!?」

「残りの二十四億を支払ってから新しい依頼を出しやがれ! つうか、それって魔域の傍にまたいけってことだろうがッ! その報酬が爺なんて割りに合わねぇよ!」

「じゃが鉱山が見つかって採掘が進まねば、残りの二十四億も出せんッ!」

「ふざけんなよッ!? なんだ、脅しかコラ!?」

「脅しではないッ、切実なまでの事実じゃッ!」

「――オイっ! テメェらも文句言ってや……なんで笑ってんだよ、お前らッ!」

「いやぁ、だってねぇクズ君」

「そっすよ、団長」

「六億でも、私達は問題ないですね」

「……は?」

「――義兄様、はい借用書。利息を含めて計算すると……ちょうど、六億」

「――へ?」


 傭兵団一同を代表した義妹が差し出す借用書を受け取る。


「私たちに無断でアナ義姉様を買った五億、たっぷり利子つけて返してもらった」

「ぁあああああああああああッ!?」


 言った。

 確かに言った。

 ヤケクソになって逆ギレして、ヘイムス城下街で――間違いなく言ってしまった。


「クラウス、私のために……ごめんね?」


 本当に申し訳なさそうに謝るアナを前に、みっともなく「あれは無かったことにしてくれ」とは言えない。


 結局、クズは――。


「また、ただ働きかよぉおおおッ! ちっくしょおおおッ!」


 王宮内で咆哮をあげた――。


 その後、謁見の間の隅にいたアウグストが松葉杖を向け爆笑する声にクズが切れ――乱闘になり。「金がねぇなら国宝の剣を寄越せ。魔剣とかあんだろ!」などとヘイムス王を脅したり。「ドラゴンスレイヤーとして側室だとか綺麗なお姉さんを!」などと泣きわめいたり。


 ――クズは精神と怪我が落ち着くまで、またしても能力を封印されて過ごすことになる。


 望みの一部は叶えようという叔父の慈悲から、綺麗な女性……クララの部屋でお人形さんになったのだ。

 結局、クズは報酬を受け取ることを諦めた。

 怪我が完治するとともに、鉱山を見つける旅に出ると決意をしたのだ。


 クズの人形のような顔には、一筋の雫が垂れていたという――。

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