9話
「――やってんな……」
外に出ると、明るい夜空と風に舞う砂埃に晒された。
満月の夜空には、月光を跳ね返し黄金に輝く四本足のドラゴンが舞っていた。
大きな翼で滑空して地上を攻撃しようとしては、水の攻撃で阻まれている。
その体長は翼抜きでも三十メートルに届きそうな大きさだった。
「――ウンディーネ、よくやってくれた! こっちに誘導できるか!?」
クズの声が届いたらしい。
空中から出現する水とドラゴンの攻防は、ぐんぐんと近づいてきて――。
「これは……大した迫力だねぇ」
「さすがにデカい……ッ! これが邪龍ファフニールの眷属か!」
「ぅおおおっ! ヤバい、これはすんごい迫力ってやつだ……。勝てる気、しないんだが!?」
三人が気圧されている。
そんな中、クズは――。
「――へいへい、トカゲさんよぉッ! そんな翼で大丈夫か!? 食って寝てだから、デブってんじゃないの!?」
全力で挑発をした。
人語すら解する賢いドラゴンは、鎌首をクズへと向けた――。
「ありがとうよ、ウンディーネ」
――重労働が過ぎるぞ……。じゃが、お主が本気で頭を下げた願いじゃ、全力は尽くした。
「……全員、無事か?」
――うむ。骨は折れたし、お主の魔力も大量にもらってしまったがのう。
「十分だぜ、相棒。――あとは俺の時間だ。ちょっと休んででくれ」
――無茶はするなよ。ピンチなら遠慮無く呼び出せ。例え魔力が枯渇しようと――……。
最後まで言い残すことなく、ウンディーネは姿を消した。
クズが魔力供給を断ち、顕界できなくなったのだ。
「……本当に、感謝してるぜ」
相棒が消えた場所を見つめながら、クズがぼそりと呟くと――。
「クラウス、来たぞ! 傷が足りんッ。応戦して、もう少しヤツの判断力を削ぐか!?」
「――はぁ? さっさと奥に逃げんぞ爺!」
「――なに? ま、待てッ!」
一目散にクズは坑道を逆戻り――ねぐらへと戻っていく。
ドラゴンの賢さでは、怒らせないとねぐらの奥までは来てくれない。
そう事前に話し合っていたというのにだ。
「このままでは、我らの臭いが奥にもあると奴に気付かれてしまうのではないか!?」
「任せろ、俺に奴を怒らせる良い考えがあるッ!」
「この短時間で、クラウスの言葉を鵜呑みにすべきではないとワシは学んだのだが……っ」
「アウグストのおじいちゃん、多分大丈夫だよっ!」
「そうだね、誰かを怒らせ不快にさせる事に関しては、クズ君はピカイチだよ!」
「お褒めにあずかり光栄だねッ!」
「誰も褒めておらんっ。ワシの教えた生き残る為の狡猾さとは、味方に貶されるものでは無いっ!」
後ろから迫ってくるドラゴンから全速力で逃げながら、アウグストが嘆く。
果たして怒りの咆哮をあげながら追ってくるドラゴンに当たった水滴は、汗だったのか。
それとも――教育を間違えたと嘆く師匠の涙だったのだろうか。
(――よし、いい感じに追ってきてくれてるな)
一本道の坑道で猛り声を響かせながら追ってくるドラゴンをチラリと確認し、クラウスは笑みを浮かべた。
「オラァ、錬成! ぶつかれやクソトカゲッ!」
クズが走りながら坑道の壁に触れて叫ぶ。
「――はっ! トカゲらしく石壁にぶつかってろ!」
クズたちの後を追ってくるドラゴンの前に、石で出来た壁が突如設置される。
雄叫びをあげるドラゴンは、急にできたその壁に全速力のまま突っ込み――。
「うぉおおおッ! 頭でっかち半端ねぇな!」
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