10話
軽々と破壊した。
鱗と瞳にパラパラと積もる瓦礫を、ドラゴンは首をブンブン振って落とす。
すると、目の前には背を向けて全速力で逃げているクズの背中が見えた。
ドラゴンはブレスを吐こうと大きく息を吸い込み――。
「――おっと、自分の巣穴でブレス攻撃ですか!? 俺を倒した後は、さぞ快適な住み心地になるんでしょうね!?」
危険度の高い魔物は、知能が高く人語を解するものが多い。
ましてやドラゴンは、極めて知能が高いと言われる訳で――。
「おい、クラウス!? やつのスピードが上がったぞ!?」
「あれはヤバい奴の予感だねッ! かんっぜんにぶち切れちゃってますよぉ!?」
「はっはっは! これだから脳筋は困るぜ!」
「クズ君、君って奴は……ッ!」
全速力で走るクズたちを逃がすまいと、落ちてくる瓦礫や石の壁など構うことなく――ドラゴンが駆けてくる。
振り返れば、大きな口と鋭い牙。
「はっはっは! ぶち切れてるヤツを端から冷静に見てることほど、面白いもんはねぇな!」
そんな中でも高笑いをあげ、なおも煽るクズのメンタルは――壊れている。
「――クラウス、もうねぐらだ! ここからどうするんだ!?」
「いいから前だけを向いて走れ!」
「前は壁だよ!? クズ君、まさか僕たちごと……ッ」
「さっすがに、ぼくも爆撃は耐えられないのっ! 粉々になっちゃうのです!」
激怒しているドラゴンに追われるというのは、尋常な恐怖ではない。
ドラゴンの咆哮だけで内臓から震動しているのに、石壁をバコバコぶち破ってくる音もあり――歴戦の猛者達や戦闘狂でさえ恐怖に声を震わせている。
「――よう、サラマンダー! 待たせたな!」
――むっ。やっと帰ってきたか。鼠は全て駆除したぞ。
「ご苦労といいたい所だが、あと一匹デカい鼠が残っているぞ!――全力で錬成だ!」
――は? お前は何を言って……。
せっせと鼠退治をしていたサラマンダーの横を、クズが走り抜けていく。
坑道の出口側――つまり、ドラゴンの迫ってくる側に分厚い石壁を築いてから。
――……待て、クラウスお前、まさか……!?
地揺れを起こしながら迫り来る方角へ視線を向けていたサラマンダーが、クズの駆け抜けていった方角を振り返る。
「――じゃ、そういう事で。一度任された仕事はちゃんとやってよね!」
すると、錬金術で奥深くへ抜けていく穴から身を覗かせたクズが、笑顔で手を振っていた。
――おま、お前……今回は火打ち石があると……ッ!
「ああ、これ? 自由に使って良いよ。――はい」
――……。
ポーンと投げ渡された火打ち石を受け取り、サラマンダーが絶句する。
「ウンディーネに回してた魔力をサラマンダーに回したから。全力でやれば大丈夫ッ!――精霊は、永遠に不滅です! 俺はお前を信じているぜッ! 相棒!」
――クソが、クズがぁあああああああああッ!
「――またな!」
穴から身を乗りだし笑顔で手を振るクズが――石で塞がれ消えた。
――あの野郎ッ! また俺を着火剤に……ッ!
憤怒の表情を浮かべ、身体の周囲から漂う炎が轟々と暗いねぐらを照らす。
そして最後の石壁をぶち破り、ドラゴンが現れた。
――くっ、頭が傷だらけとはいえ、ドラゴン! もう自棄だ、全力でやってやらぁあああッ!
自分のねぐらで敵意――いや、殺意をまき散らしている相手だ。
これまでのことで激怒しているドラゴンは、侵入者であるサラマンダーに向かって全力で突っ込む。
――いつか貴様も、この紅蓮の炎で焼いてやるぞォオオオッ! 地獄で待て、クラ――……。
最後まで言い切ることはできなかった。
サラマンダーの視界が――爆音と炎に包まれ消えた。
一方そのころ、クラウスたち一行は――。
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