5話

 些細なトラブルはあったものの、目的となる鉱山へと無事にたどり着くことができた。

 鉱山から徒歩で数十分という岩場で、兵たちは陣を張り――。


「――斥候からの報告です」


 クララやアウグスト、傭兵団主力が詰めている軍議用の大きなテントへ、斥候が報告へ戻ってきた。

 本営となるテント内に入ってきた斥候は、王族であるクララを前に膝をつく。


「報告してください」

「はっ。ドラゴンは金鉱山の奥を住処にしており、一日に二度ほど巣穴から出てきます」

「……二回、なるほどな。巣穴から出てる時間はどんぐらいなんだ?」

「数十分から数時間と、かなりばらつきがあります。おそらく、餌を狩りにいっているのかと」

「そうか。――クラウス、作戦はあるか?」

「……そうだな。――おい、鉱山内部の地図があったな」

「うむ、ワシが持ってきておる」

「やるな、爺。――この地図のどこにドラゴンがねぐらを作っているか、わかるか?」


 クズが斥候を手招きして呼ぶ。

 慌てて立ち上がった兵が駆け寄り、机上の地図を見ながら――。


「おそらく、この辺りかと。ドラゴンは毎度、この坑道の入り口から出てきます。ここは一本道ですので、進んだ先にある広い場所をねぐらにしているのではないかと……」


 恐る恐る、地図を指さした。

 王族であるクララや、もはや伝説となっているアウグストを前に怯えている兵士。

 クズは強ばっている兵士に満面の笑みを浮かべ――。


「――よくやった! これで作戦が立てられる。今後も君の活躍に期待してるぜ!」

「へ? は、はい! 全身全霊を尽くします!」

「言ったな? 全身全霊、頑張れよ?」

「兵士として当然ですッ!」

「よしよし。じゃあ次の作戦はまた後でクララが伝えるから。もう下がって良いよ」

「――はッ! 失礼します!」


 晴れ晴れとした表情を浮かべ、兵は元気よくテントを出て行った。


「……クラウス、何を企んでおる?」

「爺さんとほぼ同じだと思うがな?」

「まぁ、クラウス様に妙案があるということですね。是非、お聞かせ願えますか?」

「……嫌な予感」

「クズ君が笑うと、危険な予感しかしないよ」

「クズ団長殿、殴り込みをかけることを提案します!」

「クラウスなら、きっと大丈夫」

「まぁまぁ、今回の作戦はまともだぜ?――つうより、当初から考えていた計画通りいけそうだ」

「……爆薬か」

「さすがはアウグストの爺さん」


 パチンと指を打ち鳴らしながら、クズがアウグストを指さす。


「実力が遙か上の相手なら、搦め手や罠にかけるのは定石だろう。……問題は爆薬をいかに素早く仕掛け、起爆させるかだ」

「それについてなんだが、俺に考えがある。まず、ドラゴンが飯を探してる時間に爆薬をしかける」

「だが強い魔物は匂いにも敏感だ。帰ってきて人間の臭いがする所へは、素直に入らんだろう」

「――俺の錬金術で、地下から巣穴に潜る」

「それは、危険ではありませんか?」

「間違いなく危険。本来の出入り口は一つしかない。義兄様一人なら地下深くまで潜れるかもだけど、爆薬を持って行く人数を考えると、穴は相応に大きい。そしてそんな目立つ痕跡を残す訳にもいかないから、着いたらすぐに穴を埋めないといけない。ドラゴンが帰ってきたのを見て起爆しても、即座に待避するだけの奥行きの穴を掘るには……魔力を大量に消費するはず」

「魔力は何とかなる。一番の問題は、爆薬を安全に設置する時間の確保だ。――その為に兵をわける。五百の兵と傭兵団にはこの広場で待機して、ドラゴンが来ないか見張っててもらう。後は、爆薬でもし打ち損じた時の後詰め役だな。念のためにウンディーネをそっち側につけよう」

「成る程。それなら、伝令も必要ないわけだね。ウンディーネとクズ君はパスを通じて念話ができるから」

「その通り。爆薬設置は俺や筋肉ども――ナルシストとチチの三人でやる。アナやクララ、アウグストの爺は、この本営にいて欲しい」

「……何だと?」

「どういう事ですか?」

「相手は飛行性能のあるドラゴンだ。五百の兵が護る中央にいても、万一がある」

「孫娘――クララ王女を安全な所に置く意味はわかる! クラウス、ワシにまで安全な後方にいろというのか!?」

「――戦場を枕になんて、死なせねぇ。コレが俺の復讐だ」

「貴様……ッ!」


 アウグストが土気色の表情を歪め、クズの胸ぐらを掴む。

 一触即発の空気が流れる中――。


「クラウス様のお気持ちは有り難いですが、総指揮官は私です。私は五百の兵や傭兵とともに、前に出ます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る