6話

「おい、クララ……ッ」

「クラウス様。……愛する人が危険をおかしている中、安全な場所で紅茶を啜って待つしかない。この状況がいかに残酷なものか、おわかりください」

「ん。……クララの意見に賛成」

「おい、アナまで……ッ」

「クラウス。……残されるのは、辛い。心配が優しさじゃないことも、あるんだよ?」

「アナ……」


 かつてアナント王国がまだ健在だった頃、クズは休む暇もなく危険な戦場を転戦していた。

 そんな日々でも、王女であるアナは安全な王宮で無事を祈って待つ以外にない。

 深窓から音さえ聞こえない戦場にいる大切な人を思う辛さ――それを知っている。

 そして、もう二度と御免だとも思う。

 だからこそ、クララの主張に深く同意した。


「ちっ……。五百のヘイムス王国兵を指揮するヤツは、どちらにせよいるか……」

「ありがとう、クラウスっ」

「アレクサンドラ・ベルティーナ・アナント元王女。ライバルである貴女にもお礼を言わないといけませんね」

「アナで良い。それと、お礼もいらない。身を引いて」

「それは出来かねますわ」

「……」

「……」


 正妻の座を争う二名が、視線で火花を散らす中――。


「――では、ワシはクラウスと共に爆薬を仕掛けにいこう」


 アウグストは決意の籠もった声でそう言い放った。

 クズはその言葉に机をダンと叩き、怒りを顕わにする。


「テメェがいなかったら、誰がクララを護るんだよ!?」

「クララ王女には五百の兵に傭兵団、更には大精霊もおる。――クラウス、ワシを侮るなよ。お主……味方に犠牲が出ぬよう、最も危険な役割を担おうとしているな?」

「……これだから師匠ってのは、面倒くせぇんだよ」

「……どういうこと? クラウスが一番危険って?」

「決まっている。例え入口で違和感を感じずとも、ねぐらには大量の爆薬と何者かが入った気配があるのだ。――賢いドラゴンなら、ねぐらからそのまま離れる」

「あ、つまりクラウスは……」

「ドラゴンを誘き寄せ巣穴の奥まで引き込もうとしている。それも、判断能力を鈍らせるほどに怒らせてな。そして奥深くまで追い込んで、適切なタイミングで爆薬に着火しなければならない。錬金術で準備しておこうと、時間はギリギリだろう。そのまま落盤や爆破に巻き込まれかねない。――間違いなく、死ぬリスクが最も高い」

「……クズ君、本当かい?」

「義兄様、またそんな……」


 一同がクズに対し、心配の眼差しを向けると――。


「――クラウス・ヴィンセントの師匠って言っても、その程度か」

「……何だと?」

「あんたの知らない、クズと呼ばれる男の戦い方……見せてやるぜ――」


 それはもう、不適な笑みで笑っていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る