16話
「我が王国内で一生懸命に物を作っている者たちは、泣くじゃろうなぁ。何せ、隣国――帝国から仕入れる部品の方が、完成品の売値より遙かに高額なのじゃから。頑張ったのに、大赤字の連続となるのだからのう……」
「――この、クソ爺」
「さて、そうなれば我が愛する王国民はどうするじゃろう?――答えは単純、帝国に移り住むしかないのじゃ。そうなれば、残るは民が居ない空っぽの国! なんと不思議なことじゃ、帝国は血を流すこともなく、我が国の領土と人まで得られる!」
「この愚王がぁああああッ! そんな詰んでる状況で俺を王位に据えようとしやがったのか!?」
「我も一生懸命頑張ってきたのじゃ!」
「面倒ごと全っ部、俺に丸投げしようとしてんじゃねぇぞボケぇえええッ!」
「未だ金属類が不足しているのが噂程度で済んでいるのは、我の情報操作とやり繰りのおかげじゃ!」
「知るか! そんなもん、王宮内にある金属が尽きたら終わり! じり貧、時間の問題だろうが!? テメェ、俺に王位と責任を負わせて逃げようってつもりか!?」
「我とて民無き王となることは望まんし、反乱で王族を失うことは許せん! 我が王家の血筋が残ることこそ最優先ッ! クラウスならなんとかできると判断したまでのことッ!」
「出来るか! あんたと話し合いなんて無駄だ。こんな滅びる一歩手前の国、さっさと脱出させてもらう! それが籠に囚われない自由な傭兵ってもんだ。――おい、いくぞお前らッ!」
「本当によいのか!? 大国が滅びれば傭兵稼業にも支障が出るぞ! 大口の顧客を一つ失うようなものじゃ!」
「勝ち馬に乗ってアホほど稼いでやる! 嫌なら、大金の入る依頼をもってこいよ愚王ッ!」
「叔父に向かって、なんと薄情な言葉か!?」
「甥っ子に面倒ごと押しつける奴がまともな叔父を気取んな!」
「家族として助け合おういう話をしたまでじゃ!」
「助け合いも何もねぇだろ! エロの情報は渡さねぇ、軟禁して結婚と王位を押しつける、俺には利益が何にもねぇだろ! 甥っ子に無理難題押しつけてるだけじゃねぇかよッ!?」
「違う、我にそんなつもりはない!」
「なら、どういうつもりだってんだ!?」
「帝国は表で休戦協定を結んできておりながら、影ではちまちまと国力を削ってきおる。こんなことをされた時にクラウス、そなたが王なら――どう振る舞う?」
「……ああ? 決まってんだろ。会談なりなんなりで、抗議やら協定の見直しだとか……」
目を泳がせながらクズが答えると――。
「クラウスならば、キレてやられる前に武力で潰す。そうワシは思うのう」
「私も同じだと思いますわ」
「……義兄様なら、難しいことを考えるのを放棄する」
「うん。クラウスなら、間違いなく武力で敵を黙らせる」
「そうだね。それに、ただ戦うんじゃない。――敵の要地、鉱脈を奪って同じ事をやり返すだろうね」
「……ぁうう。はい、お金とか難しいことはわかんないですっ! でも、めんちぃ事を言ってる相手は殴るのが早いよっ!」
「おぉぉおいッ!? お前らっ俺を野蛮人か何かと勘違いしてねぇか!?」
「……一人、思考を放棄している者がいるが……我もそう考えた」
「じいさん、あんたもかよ!? 叔父として甥っ子をかばえよ!?」
「我は血を何より大事にする。我が血脈を護るため、最善の行動こそが――クラウスを王に据え、貨幣を粗雑にしてしまおう。――そして姑息な手を使う帝国に対し、もっと姑息な手を用いて奴らの鉱山を奪ってもらおう。そう思ったまでよ」
「俺になすりつけんな、テメェで勝手に攻め込めよ!?」
「兵が付いてこないじゃろう。相手は強大な帝国、アウグストも病で本来の力はもう無い。――ならば、英雄と呼ばれる者が命じねば……兵の士気がどうなるかは知れたものじゃ。違うか?」
「……それはッ! なら、さっさと魔域の金山だとか開拓しろよ! あそこは人類がほとんど入ってないから、手つかずの鉱山とかいくらでもあんだろ!?」
「――そう。我がヘイムス王国は、帝国と魔域に国境を接する。故に、資源は魔域側で開拓を進めていけば良かった。……つい先日までは、それで良かったのだ」
「……どういうことだ?」
「王位につけば叔父ちゃんが全て教えよう。――王になれ、クラウス」
「断る」
「断ることを断る」
「断ることを断ることを断るッ!」
「――我が可愛い甥っ子よ、叔父ちゃんを見捨てないでくれぇえええ!」
「ざけんなッ! 抱きつくな、クソ爺ッ。うぇ……ズボンに鼻水が……っ」
「王になれば、お前の義妹の情報も教えるから! じゃから頼むぅうううッ!」
平行線を辿る二人の交渉に、アウグストが深くため息をついた。
そんなアウグストの肩に、アナがチョンチョンと――。
「ん? どうした。アナント王の忘れ形見よ」
「……魔域の問題って、何? なんで今までの所で採掘もできなくなって、新たに開拓もできなくなってるのかな?」
「……む。良いところに目を付けたな。だが、それをワシの口からは――」
「――それについては、我が説明しよう」
先程までの情けない姿が嘘のように、ヘイムス王は外部者に接する態度らしくキリッと表情を引き締めた。
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