17話

「実はのう……あの鉱山には、とある魔物が住み着いてしまったのじゃ。魔域からやってきた魔物がのう……」

「……つまり、その魔物を倒せば全部解決?」

「アナント王の娘よ。簡単には言うがのう、それができれば――」

「――クラウスなら、できる」


 え、という顔をしたのはクズだ。


「私たちは、傭兵。クラウスに王になられたら困る。クラウスも王になりたくない。――でも、王国は財政が大変だからその魔物を倒して欲しい。依頼を受けて、私たちがそいつを倒せば解決。違うかな?」

「う……む。じゃが、そのように危険な依頼を我が甥っ子に――」

「――子供を信じるのも、親の責任」

「そなた――」


 ヘイムス王が、アナの言葉で目を丸くする。

 そんな王の肩を叩いたのは、アウグストだ。


「我が子を信じ、試練を与えるのも――親の責任です。陛下、やってみては?」

「アウグスト……。そうじゃのう、わかった。では失落の飛燕団に、ギルドを通じ指名依頼を出そう」

「……ちっ。――そんで、何を倒してこいってんだよ、爺」

「――黄金の邪龍、ファフニールの眷属じゃ」

「ぜってぇ断る」

「断れぬ」

「もうこのノリには付き合わねぇよ! バカじゃねぇの!? 黄金の邪龍ファフニールとか、神話に登場するような特級の怪物じゃねぇかよ!? むしろ実在したのかよ!」

「それじゃから、我が国は存続の危機なのじゃろうが! 半端な魔物なら自分たちで狩っておるわ! じゃが、住み着いたのは神話に出てくるドラゴンではない!」

「なら、名前だけで弱えのかよ?」

「神話に出てくるドラゴンの眷属じゃぞ? 三千の兵の殆どが、肉片になって帰ってきたわ」

「ざっけんな! 危険度S級でも、単体なら五百人いれば討伐できんだぞッ! そんな相手、間違いなく人の手に負えねぇ特級じゃねぇかボケッ!」

「だから困っておるのじゃッ! 今は帝国も密偵を数多く潜り込ませておるはずだッ! バレることのない数で、秘密裏に討伐などはできぬッ!」

「ああ、そう。俺たちにも無理だね、無理ッ! 俺たちは根無し草の傭兵だ、渡り鳥と一緒なのッ。風と共に安全で温かいところに飛び去るッ! オイ、いっちゃん遠いセイムス王国にでもいこうぜ、お前らッ!」


 謁見の間から足早に立ち去ろうとするクズに。


「義兄様、黄金は絶対に許さないって言ってた」

「言ってたねぇ。クズ君、黄金は殲滅するって」

「話を聞いた限り、そのドラゴンも黄金ッ! 抹殺対象だねっ!」

「レベルがちげぇんだよ、アホ共ッ!」


 金色の鎖とかいう人間の集団と、伝説の邪龍の眷属は違う。

 クズがぶち切れていると――。


「クラウス……私からもお願い。漁村とは規模が違う、国家だと……逃げ場がない」

「アナ……。俺だって、今回はできるなら、やる。――でも、無理なものは無理」


 両手を組んで、アナがお願いをした。

 それに対し、キラッと歯を光らせながら一刀両断。

 即座にクズは断った。


「お願い」

「無理」

「お願いの中のお願い」

「無理中の無理」

「一生のお願い」

「一生かけても無理」

 二人の不毛な争いに、皆が苦笑する。


 中でもクララは――。


「おじいさま……クラウスは、嫌々ばかり言う殿方になってしまいましたわ」

「うむ。師として、実になげかわしいことだ」

「知るか、人は知らねぇとこで育つんだよ! あんたらも、身体に気をつけて早く国外へ――」


 嘆く二人に対し、後ろ手を振って謁見の間からズカズカ立ち去ろうとすると――。


「ドラゴンスレイヤーともなれば……。どれ程の側室を持っても、許されるんでしょうね。いえ、むしろ英雄の遺伝子です……許されるどころか、大歓迎でモテモテですわね」

「ああ。それは当然だろうな。強い者は全てを得る」

「ましてや経済的に沈む国を救った英雄ですものね。歩くだけでも女性から賞賛され、それはもう……すごい歓待をうけそうですわ」


 ピタッと、クズの足が止まった。

 赤く深い絨毯の上に跡を残しながら、クズは身体をギュルンと反転させた。

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