15話
「……暴れてる奴らを止めるのには、手練れを寄越せよ……」
アウグストや傭兵団より強いものが居なくて、止める事が出来なかったのだ。
結果、好き放題ボコボコにされ、クズは傷だらけになった。
そして三時間にわたる暴行で負った傷は――宮廷魔法士の治癒魔法でも全快には至らなかった。
「こんな身体にされたのに、ケツ叩かれて急がされたんだよ……クソ爺が」
「そ、そうか……。それは、何というか。女遊びは控えよ」
「俺がお人形遊びされてたんだよ!」
「それは見ておったが……。ううむ、まぁとにかく。クラウスが我の後を継ぐと宣言すれば――」
「――そのことだがな、クソ爺。もう一度聞く。――あんた、何を隠してやがる?」
「前にも答えた通り、強い王の元で人域の要地を奪い取れる強い国を――」
「――なら、なんで兵士の武具を奪っている? なんでヘイムス王国内では金属類だけ、相場が高騰してやがんだ?」
「――クラウス、なぜお前がそれを知っている!?」
アウグストが眉を跳ねさせ驚愕を顕わにした。
「精霊に調べさせたんだよ。俺を王位にするからには、国内で問題が発生してんだろうってな。クソ爺が『こちらにも色々あるんだ』とか疲れた顔で言ってたしな」
「……成る程、我の失言か。それで、どこまで予測しておる?」
「金の価格が特に値上がりしている。大方、どっかの金山が枯渇したか?」
「……近いのう」
「だろうな。あんたは『人域の要地を個の力で取れるように』って言った。金が含まれていない兵士の武具まで奪ってるんじゃ、武力を削ってる。今は大軍を出せない状況なんだろうな」
「ほう……」
「そして、帝国と比較した物価だ。金属類は帝国の何倍でも買い取るくせに、他の物価はかえって安い。つまり――この国で鋳造して流通させている貨幣が減ってるんだろ?」
「――正解じゃ。見事じゃな、クラウス!」
「見事じゃな、じゃねぇ! ちゃんと説明しやがれ!」
巻き込まれた失楽の飛燕団の面々も、説明を求める視線をヘイムス王へと投げかける。
ヘイムス王はアウグストにチラッと視線を向ける。
アウグストも、苦々しい顔で頷いた。『やむを得ない』というように。
「知っての通り、流通する貨幣の量が多ければ物価は上がる。そして逆に足りなければ物価は下がる」
「ああ、そうだな」
「我が国では、とある理由で魔域側にある金山や銀山に近寄れなくなってのう。……新たに鉱脈を探すこともできない。正直な話、今の高品質な貨幣をこれ以上造り続けることは……現実的ではない。国として金や銀、銅を仕入れ、王国内に貯蔵されていたものを捻り出しても……めざとい商人が他国から安く買って抱え込んでおる。更なる高騰を待ってな」
「……つまり、本来なら戦力を高めるべき休戦期間にも関わらず、物価を安定させるために武力も財力も弱まっていると」
「そうじゃ。かといって『金属が枯渇しているので、貨幣を粗悪なものに変えます』などと容易には言えん。貨幣を改鋳するのに適したタイミングとなれば――」
「――王が変わったとき、か……。なるほどな、急遽俺を王にすれば、間に合わなかったと言い訳して貨幣を粗雑で小さなものに変える理由になる。それで新たな鉱脈を見つけるまで凌ごうとした、と」
「惜しいのう。……それだけではないのじゃ」
「――あ?」
「この事がおおっぴらにバレて、多くの商人や民が更に金属類を買い占めたら――いよいよ貨幣が造れなくなるのう。そうなれば一気に流通する貨幣の価値は減り、物価もストンと下がるじゃろうな」
「……おいおい、まさか」
クズが、サッと顔を青ざめさせる。
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