14話

「クラウス……私、もう離さないって言ったのに。約束破ってごめんね?」

「私も……ちょっと、あの頃を思い出して寂しくなった。義兄様も、エロ姉さんも……お母さんもいない。寂しい洞窟の中」


 なるほど、とクズは思う。


(こいつらも……拗らせておかしくなっちゃったんだ。みんな――もう手遅れ、なんだね……)


 つうっと、熱い雫が両頬を伝って流れ落ちていくのを――アナがペロリと舐めた。


「ん……。しょっぱい」

「ちょ……っ。貴女は何をなさっているんですの!?」


 慌てたクララがアナの肩を引いて、ベッドから降ろす。


「貴女が、クラウスを泣かせたんだね」

「違いますわ。あなたのせいですのよ! あなた例の……クラウスの、元主君ですわね?」

「そう。今はクラウスの奴隷、幼馴染みにして愛を誓いあった従兄妹」

「……奇遇ですわね。私も愛を誓いあった長馴染みにして従兄妹ですのよ」

「……私の方が勝ってる」

「何を仰い――今、身長をバカにされましたか!?」

「ふっ……」


 片側の口角だけをつり上げて、アナは笑った。挑発的な笑みだ。

 カチンときたのか、クララは瞳をカッと開き――。


「胸は私が勝ってますわね」

「……無駄に大きければ、いいってもんじゃない」


 細身の身体には十分過ぎる程に大きいアナの胸だが――クララの胸を見てカッと瞳が開いた。

 胸に付いている果実が――デカい。

 確かに、自分はクララの巨大すぎるバストには及ばないと悟った。

 腕を組んで、さりげなく自分の胸を強調して対峙する。

 そこで――。


「――二人とも、私に喧嘩売ってる」


 ぶち切れながら第三勢力――マタがゆったりとベッドから降りてきた。

 小さい身長、ぺったんこの胸。

 身体面で二人が指摘した劣る部分――全てにおいて、惨敗だ。

 そんな敗北者は、敗北者に甘んじていられるのだろうか。


「――自分より上を消せば……残るのは私一人」


 そう、譲れない場面では――敗北したままではいられない。

 己の存在意義、プライドをかけ――マタはカッと瞳を見開く。

 バチバチと火花を散らす三人。

 そんな女同士のプライドを賭けた勝負を尻目に――。


「ワシは首輪を断ち切ろう」

「じゃあ、僕は足枷かな。……クズ君、なぜだろうね。今の僕は、モテている君が羨ましくないんだ。……これはやっぱり、僕が女性よりも美しくなってしまったからかな?」

「単に女の汚い部分を見たから、自分が綺麗と錯覚してるだけだ。お前は変わらず、むさ苦しい筋肉達磨だよ」

「はいはい~! 仲良くおしゃべりも良いけど、やることスパッとやっちゃおう! ぼくはこの手枷だね。――ほいっと!」


 一瞬、気のようなものを送るため瞳をカッと開いたチチが、一瞬で手枷を破壊する。

 続いて首輪と足枷も破壊され、クズはやっと自力で動けるようになった。

 首をコキコキとならしながら、上体を起こして――。


「チチ、お前は色気より食い気だな……」

「ん? そうだよっ! ぼくはご飯と武に関連するものがあればいいのですっ!」

「――お前を仲間にして……。本当に、良かった………ありがとうっ」


 チチをギュッと抱きしめた。


「ふぇえええ、クズ団長殿っ!? どどど、どうしたというのかなっ!?」

「怖かったんだ……。今だけ、こうさせてくれないか」

「はぅぅう……」


 クズの胸の中で、腕を畳みながら動揺していたチチだが――すぐに抵抗を止めた。

 震えるクズの様子を見て。――そして、耳元で甘える声を聴かされて、なんだか頬が照ってしまう。

 自分のドクドクという鼓動に動揺して、動きを止めざるを得なかった。


 ――数十分後。


 クズがチチを除く他の女性陣と、助けにきた男二人にボコボコにされている姿がメイドに発見され、国王へと報告された。

 何かを諦めた様子の国王は『クラウスに治癒魔法をかけ終わり次第、その場にいる全員を謁見の間に連れてこい』と指示を下すことになった。


 ――そして、それから三時間後。


 宵闇の中、満月が窓から見える謁見の間。


「……随分と治療に時間がかかったのう、クラウス」


 玉座に座るヘイムス王は、ボロボロのクラウスを見て苦笑した。

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