13話
「いいから、時間がねぇ。――報告してくれ。人や物の流れ、値段や内乱や戦争の兆しとか、なんか変なところはあったか」
クズは確かに能力を封じられるアクセサリーの効果により精霊の姿を顕現は出来なくなった。
だが長い時間――戦闘に使えるものではない程度なら精霊と交流ができる。
国宝の道具であっても、外の様子を探らせたり会話をする能力までは封じ込められて居なかったのだ。
そこに関して、アウグストもクララも――精霊とクズが紡いできた親和性の深さを侮っていた。
――妾が気になったのは、ヘイムス王国と帝国の物価の差じゃ。
「物価?」
――うむ。帝国で百ゼニーで打っているパンが、こちらでは九十ゼニーじゃったな。
「……それは、大した違いじゃないだろう。誤差の範囲だ」
――なのに金属類は倍ぐらい王国の方が高いのじゃ。金の相場など、四倍ぐらいヘイムス王国の方が高い。
「……何?」
――それだけじゃないぜ。軍事面を調査してきたが……武具の量が明らかに不足している。
「武具が?」
――ああ。王国の命令で、次々と支給されていた武具が取り上げになっているらしい。
「……なるほどな、そりゃあ異常事態だ」
――今の妾たちではこれが限界じゃったな。もっとピンポイントで探せるならともかく。
――封じられたクラウスから提供される魔力量では、物にも触れん。すり抜けちまうからな。
「いや、よくやってくれたよ。――さすがは相棒だ」
――む、クララの気配じゃ。
――クラウス、気を強く保て。……心まで人形になるなよ?
そうして、ふっと精霊たちが姿を消すと当時に、クララが扉を開けてきた。
「――クラウス様。今、誰かとお話していませんでしたか……?」
「ああ、ちょっと精霊と会話をな」
「……まだ私に黙って、そんな事を? 私さえ居れば良いじゃないですか」
「――クララのその演技も、終わりだ」
「……演技?」
「お遊びの夢が覚める時間だ。クララはあんな、嫌な奴じゃない。やり方が不器用なだけで、血筋をかさに他の貴族を脅すような奴じゃない」
「……」
「なんでこんな、似合わない悪役の真似なんざぁしてるんだ?」
「……さすがですわね、クラウス様」
「……」
「クズを自称し行動される――そんなクラウス様と並び立とうと、悪役の真似毎をしていただけですわ」
「俺みたいになって、どうする」
「一つ……クラウス様は勘違いなさってますわ」
「勘違い?」
「確かに、社交場であの貴族を脅したのは演技です」
「おう」
「ですが――私がクラウス様を愛し、相応しくなろうとする気持ちは――本気ですのよ?」
頬を紅く染めたクララが、ベッドで仰向けに倒れているクズへと覆い被さる。
「ちょっ、クララさん!? あなたは貞淑だって仰ってなかったかなぁあああ!?」
「クラウス様が悪いのですよ。……夢から覚めようとして、他の者と会話なんてするから……っ」
「ヤバいヤバいって! こんなんで初めては嫌だって!――おい、見てんだろテメェらッ! 早く助けやがれ!」
「……え?」
クララが疑問の言葉を発すると同時に――廊下から二人の愛の部屋に繋がる扉が開かれた。
「おじいさま……」
「すまんな、クララ。……さすがに、孫娘が狂愛に生きるのを見ているのが辛くてな」
「……そうですか。――それで、傭兵団の方々まで解放されたんですの?」
「いや、むしろ……ワシがこやつらに説得されたのだ」
「……どういうことですか。その方々たちは、おじいさまたちも知らない場所へ軟禁していたはず――」
――妾たちが見つけたのじゃよ。
――ああ、クラウスの惨状も伝えてな。アウグストの部屋まで案内したんだ。
「……精霊の声、そうですか。透明化させた精霊に壁を抜けさせたんですのね」
「そういうこった。――さぁ、家族のように深い絆で繋がった仲間たちよ! この枷をぶっ壊して、俺を籠から解き放て! 自由な世界に羽ばたかせろッ!」
クラウスが完全に勝ち誇った声で指示すると――アナとマタがまず近づいてきた。
「――クラウス、添い寝しようね」
「義兄様……無防備」
「あれ……?」
予想していた展開と違う。
本来、クズの予想ではここで格好良くアクセサリーを壊して貰い、『お前の思い通りにはさせない!』と言う予定だった。
なのに、今の状況はどうだ。
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