12話
そんなこんなが続いた、とある夜。
「――クラウス様。私、夢でしたの……クラウス様とこうして、夜会で一緒にダンスを踊るのが」
「――そうか。クララが思い描いた夢は、こんな形をしていたか?」
「はい、まるで夢の中のようです……」
「紛れもなく悪夢だな。もう俺は驚かんよ」
「私とのダンス、楽しくありませんか……?」
「楽しいも何もねぇ……。よく靴にまでこんな繊細に動く車輪を付けたと感心してるよ」
「ふふっ。私、頑張りました」
「……これさ、お人形さん遊びの中でも高度だよね。俺、添え木のせいで自由もないのに、ぐるんぐるん回ってるんだけど」
「長年の成果ですわね」
「クララの人生、本当にそれでいいの? 人生、長いようで短いんだよ?」
「お人形さん遊びも、可愛いくて素敵な趣味でしょう?」
「小さい子のお人形さん遊びならピュアで可愛いかもな」
「まぁ。私、身長が小さいのがコンプレックスでしたが……。クラウス様に可愛いと言っていただけるなら、小さくて良かったですわ! 嬉しくて思わず踊ってしまう。これこそ、狂喜乱舞ですわね」
「上手くねぇかんな? 小さな大人が、大人の男を人形にして遊んでる。――ただの狂気、ご乱心だよ」
貴族や王族が集う社交界の会場にて、クララはクズのパートナーとして出席していた。
靴には車輪が仕込まれ、今度は関節の角度を変えられる機能がついた改良型の添え木くんだ。
(俺はお人形さん、お人形さんお人形さんお人形さんお人形さんうっふふう)
結局そのまま一曲を踊り終え、カラカラとダンスホールの端に押されていく。
当然、周囲からは奇異の眼差しで見られる訳で――。
(この羞恥的な時間が早く過ぎ去ってくださりますように)
クズが現実逃避している時、一人の金髪イケメン貴族がワインを片手に話しかけてきた。
「クララ様、こちらが例の……クララ様の想い人ですか?」
「まぁ、侯爵家の……。そうです、私の想い人、クラウス様ですわ」
「それは……なんとも」
「重い人……から、タスケテ」
「……失礼ながら。クラウス殿は先日も謁見の間で、陛下を前にしての傍若無人な振る舞いをなされてましたね?」
「今の俺を……見ないで」
「お気の毒に……。クラウス殿は英雄との事ですが……失礼ながら、先日の振る舞いといい、今日の……その、アレなお姿といい。可憐なクララ王女に相応しいとは――」
「――口が過ぎますわよ」
クララの言葉は、上品さの中に濃密な殺気を含んでいた。
侯爵は元より、周囲も息を飲んでしまうほどだ。
(……さすが、アウグストの爺に護られながらも、魔域で訓練を積んだだけはあるな)
人形のように意識を手放しかけていたクズだが、濃密な殺気によって正気に戻された。
「畏れ多くも、クラウス様と私の結婚は陛下が決められたこと。お兄様や他の兄妹も賛成していることです。そして、私もクラウス様を愛している。――貴方様は、血の繋がる家族の絆にヒビを入れたいのですか?」
「――ぃ、ぃえ……僕は、そんな……っ。し、失礼致しました!」
頭を下げ、貴族の男性は足早に会場から立ち去っていく。
クラウスを愛していると言い切ったクララに対し、ヘイムス王が拍手をし始める。
それを皮切りに、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
そんな状況で、クズは思う。
「さっきのイケメンの言葉が、完全に正しいじゃん……」
なんだんだよ、このいかれた集団は――、と。
そうして社交界も終わり――クズは即座にベッドへ寝かされた。
一方クララはというと、女性もののドレスのためコルセットを解いたりと手間がかかる。
一人で着替えるのも難しく、別室でメイドに脱ぐのを手伝って貰っていた。
クララから離れられる、短く貴重な時間に――。
「――サラマンダー、ウンディーネ。戻ってるか?」
――ああ、帰ってきてたぞ。お前がマリオネットみたいに踊ってるとこらへんでな。
――妾も同じ頃じゃな。……いやぁ、恋する女子を長年不安にさせると、怖いのう……。
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