19話

「なんだ、爺さん。まだいたのか」

「ええ、最後にご挨拶と……。実は一人――面白そうな人材を見つけましてな。本人も望んでおりますし、是非ギルバート殿の傭兵団に入れて欲しいと……」

「……本気か? 人材を求めた商人には、どう説明するつもりだ」

「破格の値段で難題依頼をこなしていただきましたからな。補償金は、私が払っておきましょう。ギルバート殿への恩義と……今後の繋がりへの投資とかんがえてくだされ」

「そうか。……まぁ、本人の希望を尊重すっか。そんで、入団希望者は今どこに――」

「――はい! ここです団長殿!」


 遙か遠くから、飛ぶようにジャンプしてクズの前にやってきた。

 魔法を使った様子もない。

 外見は長い金髪をポニーテールに纏めており、子供のように小柄だ。

 胸は――……。


「貧乳だな、不採用」

「やっぱり、クズ君はちゃんとクズだね」

「人は胸じゃ無いよ!? ぼくの中身も見て! ほら、こんな事もできるんだから!」


 たたっと駆けだしたかと思うと、クズが天職の一つ、錬金術で作り出した土塀に掌をつけて止まる。


「猿が反省してるポーズか? そんぐらい俺でも――」


 彼女は片足を引いて深く息を吸うと――。


「ふんっ!」


 力をこめて押し、塀が爆砕した。

 それはもう、巨石でも落ちてきたような音を立てて。

 バラバラと吹き飛んだ土が、呆気にとられるクズたちの顔へとへばりつく。


「――えぇ……何、あの身体能力。こわぁい……」

「お、驚かれましたかな? どうやら鎖国している極東の島国、大八洲で売られたそうなのですが……。『怪力』の天職持ちのようでして」

「――は? 天職持ちの奴隷?」

「天職持ちって、それなりに貴重。占い師に天職なしって言われる方が多い」

「そんな子が、奴隷として売られたのかい?」

「……私みたいに、訳ありなのかな?」


 笑顔でピョンピョン跳ねながら戻ってきた。


「ぼくね、この怪力の代償ですっごいご飯食べないといけないの! 実家お稼業もできないし、『お前に向いている場所に養子に出す』って売られてね! ぼくを買った道場も、ご飯代が無くなったみたいで『これ以上置いとけない』って、また捨てられちゃった!」

「そんな暗い過去を笑顔で言うな。反応に困るわ」

「あ……もしかして、あなたはさっき『自分の食い扶持は自分で稼ぐべき』って声をあげてくれた子かな?」

「それだけじゃない。確か、墓穴を掘るのも手伝ってた」

「……何?」


 アナとマタの言葉に、クズも反応する。


(……家畜のように生きていた集団の中で、周りに流されず意見を言う奴がいたか)


 軽く目を開きながら、怪力の女性に確認を取るように視線を向ける。


「そうだよ、でもみんな聞いてくれなくて暴れ出したから……。ぼくも段々頭にきて、もう暴れちゃおっかなって思ってたんだ! 団長さんが来なかったら、全員ぶちのめしてたかも?」

「だから、笑顔で物騒なことを言うなっての……」


 クズの顔が引きつってしまう。

 こんな身体能力を持った奴が暴れていたらと思うと……背筋が凍った。


「クズ君、僕は彼女の入団に賛成だよ。気骨がある生き様、漲る力は……僕の腕のように美しい」

「腕にキスすんじゃねぇナルシスト、髪の毛抜いてケツに植えるぞ」

「義兄様、私からもお願い。腕の立つ団員は、依頼達成に役立つ」

「そうだなぁ……」


 クズは失落の飛燕団の戦力を思い返す。

 失落の飛燕団の戦力を総合的に考えれば――物理的な攻撃能力の高い兵が不足していた。

 腕が立つ者と言えば後衛兼頭脳担当の魔法使い、マタ。

 同じく後衛兼筋肉担当の狩人、ナルシスト。

 次点として、癒やし担当のアナぐらいだ。

 そうして、クズは気がついてしまった。


(あれ? 今まで俺が危険な目に遭ってたのって……もしかして、俺以外に前に出て戦えるまともな奴がいないから?)


 前に出てまともに戦える者がいれば――自分の危険や負担が減るかもしれない。


「よし、可愛いお前等の頼みだ! 認めよう!」

「……クラウス? なにか、打算あるよね? いきなり興奮して笑い出したよ?」

「気のせいだ。お前、名前は?」

「私は、アケチチサだよ!」

「そうか、呼びにくい。お前の名前は今から――チチだ」

「チチ!? なにそれ!? でもまぁ細かいことはいいのです! よろしくね、団長殿!」

「俺の事はクズでいい」

「クズ団長殿!」

「……もう、それでいいや」


 こうして失楽の飛燕団に、貧乳の怪力元気娘――チチが加入する事になった。

 難事を解決した失落の飛燕団四十二名は、新たな仲間を加え再び旅に出る――。

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