12話
「――貴様ら、何者だッ。誰に手を出したか分かっているのか!?」
甲板には、私兵を含めて三十名ほどの乗組員が縛り上げられた。
クズが平和的に船室から引きずり出し、続いたナルシストのパワーで制圧したため、殆どが無傷だ。
ボスと呼ばれていた男は、いかにも成金といった風貌だ。手の込んだ金糸や高級そうな布地の衣服、宝飾を身に着けている小太りの男。明らかに豪商か貴族という装いだ。
「義兄様、この船には五百人近くの奴隷が詰め込まれてる。物より酷い扱い。……ずっと閉じ込められてたり、拷問された人の心は……もう」
「そうか」
奴隷や金品を収納しているという船倉を確認に行ったマタとアナが、沈鬱とした表情で帰って来る。
そんな悲痛な報告にクズは、何でも無いことのように返事をした。
「――さて、もうすぐ陸に着くが……どこの貴族の依頼だ?」
「――な、なんの事だ?」
ボスらしき男が目線を逸らして、白を切る発言をした時だった。
クズはボスの首を掴み、甲板から海に向かい放り投げ――。
「――ひ、ひぃいいいいっ! おち、落ちる! い、痛いっ。苦しいッ!」
頭から海に向かって落ちそうな男の足をガンッと甲板に踏みつけた。
ボスは逆さ吊り状態で、船体を引っ掻きながら悲鳴をあげている。
「こんだけの大型奴隷商船を付けられる港なんて限られている。密入港や海上での瀬取りができるような人数でもない。――どこの領主貴族と繋がっているか……言ってみろ」
「……そ、そんな事を言ったら、ワシは……っ!」
「そうか、言いたくないか。残念だなぁ……」
諦めたように力の抜けたクズの声音で、ボスは助かるのかと安堵し微笑んだ後――頬を引きつらせた。
――準備出来たぞ、これでいいのか?
「おう、ご苦労。……さて、ゴミを踏んでるのも疲れるんだよなぁ……何時までもつかな?」
逆さ吊りの男の真下に移動していたサラマンダーは、海水で一杯の樽を沸騰させる。
立ち上る蒸気がボスの頭部や顔に集中し、耐えがたい熱さで暴れている。
「ぎゃあああああああッ! あ、熱い熱い! 助け、助けて!」
喋る度に蒸気を吸い込み、喉すら焼けそうだ。
――そんな中、蒸気が更に強くなる。
いや、ボスが樽に近づいたのだ。
「あ~あ。……暴れるからそうなるんだよ? ビチビチと活きの良い魚みたいだなぁ、随分肥えてるし……。どうしよう、踏むのも疲れてきたなぁ……」
クズはヤレヤレといったようにため息をついたあと――鋭い眼光を、ぶら下がるボスへ向ける。
「このまま熱湯に落ちるのかぁ、可哀想に……でも仕方ないよね。なんの罪も無いのに殺されたり、奴隷にされた人達は――もっと可哀想な目に遭ったんだからなぁ……」
これは力の抜けた声なんかではないと、ボスは遅まきながら理解した。
(本気の怒りをため込んでいるッ! 怒りを爆発させず、内部で煮えたぎらせている……ッ)
だからこそ、冷静な声音なのだ。
それが、余計に怖い。
悪魔よりも怖い男に、これ以上反抗するのは――死ぬより怖い。
(もし、マグマのように煮えたぎる怒りをこの男が噴火させたら、ワシは……ッ)
結局ボスは背後関係を洗いざらい全て話した。
話した内容の証拠まで示し、やっと甲板へと上げられた――。
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