13話
「――ハイスリープ」
もうこれ以上聞き出せる事もなくなった船員達は、マタの魔法で眠りに落ちた。果たして次に目覚めることがあるのかは分からないが――。
そうして大型帆船から、三百人もの奴隷を降ろす作業が始まった。
「……どいつもこいつも、死んだ目をしてやがんな」
「……仕方ない。縛られて、殆ど身動きも取れないような状態で拘束されてたんだよ」
「そうか……」
小型の運搬船を降ろし、元奴隷達を村にまで移送するのは、遅れてきた団員達が行っている。
船上で指揮を執るのはナルシスト、陸で指揮を執るのはマタだ。
幽霊のような足取りで奴隷商船を出て行く人々は、依頼にあった漁村の住人だけではない。
奴隷商の背後にいた帝国領主貴族であるドルツ子爵の元で税金を払えなくなった者。
そしてヘイムス王国の漁村沿いや離島に住む住人達など……多種多様だ。
中には、運搬中に病で亡くなった者の遺体もあった。
殆どの遺体は海に投げ捨てられたようだが、残っていた遺体は丁重に運ぶように指示してある。
あとで、犠牲になった漁村の住人と一緒に荼毘に伏す予定だ。
「あ……っ。転んだ……大変っ」
移送している最中、上手く歩けずに転倒した奴隷をみて、アナが悲痛な声をあげる。
奴隷は傭兵団員によって助け起こされるが――他の奴隷は、見て見ぬふりだ。
「――人間ってのは、きたねぇよな。俺も含めて……だけどよ」
次々と陸地へ案内されていく人々と――海面に映る自分を甲板から眺めながら寂しげに呟くクズに、アナは声をかけられなかった――。
「――それじゃ、遺体を燃やす。……サラマンダー、頼む」
――わかった、特別のを……ゆくぞ。
雲一つ無く、星が煌めく夜空の下。
団員が深く掘った穴に遺体が並べられ、サラマンダーが燃やす。
土にそのまま埋めるのでは、野犬に掘り返される可能性がある。
ただの炎ではなく、神聖で清麗な炎で焼かれるのは――遺体に対する最大限の配慮だった。
元奴隷達は、墓穴を掘るときもずっと力なく座っていた。
団員の作った食事を口にして、僅かに元気を取り戻したが――泣くか呆然としてばかりだ。
「……一人、一緒になって墓穴を掘ってくれる奴もいたか」
ずっと繋がれていた身体で、関節も軋むだろうに。
団員に負けず劣らずの働きを見せていた奴もいたなと思いながら、クズは満天の星空に吸い込まれていく煙を眺めていた。
十分に弔いができた後、クズはサラマンダーの顕界を止めた。
(だいぶ回復してきた所で、また一仕事頼んじまったな。……魔力の伝達効率的に、まだ奴らには休憩がいる)
精霊達から繋がるパスから感じる。
立て続けに力を使いすぎた精霊達には、もう少し休息を要すると判断してのものだ。
火葬が終わった後、遺骨に土をかける段になっても――手伝ってくれた奴隷はたった一人だけであった。
マタとナルシストの指示で、団員の何人かが商船から奪った金品で追加の支援食糧やテントの購入をしてきた。
ギルドへ依頼は半分成功で、半分失敗という報告も兼ねて。
「結局、村長の娘は持参金を使い町のギルドで面倒をみる手はずで纏まったか……。それはいい、問題はこいつらだな」
支援食糧の提供にクズは反対をしたが、幹部達との多数決で採択された。
「このまま見捨てて、先にはいけないよ。……私は、そうしたくない」
「……そうか」
クズの顔は、美しい星空とは対照的に曇っていた――。
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