3話

「さすが、天職マッチョの狩人だな」


「僕の天職は女性の心を射貫くことだよ。言うなれば、『愛の狩人』かな?」


「俺の目が黒いうちは、お前の粗末なショートボウは一生使わせねぇ」


「僕のはロングボウだよ!」


「ああ!? なら俺のはモーニングスターだね!」


「……義兄様、モーニングスターはいくら私でも……壊れちゃう」


「マタ、お前に俺のモーニングスターは使わねぇよ。そう言う色っぽい台詞はあと身長を十センチ、バストを三ランクアップしてから言え」


「屈辱。……必ず、胸が成長する薬を造る。あるいは、惚れ薬でもいい。期待してて」


「できるかッ! んなもん造りやがったら全部逆効果になるよう錬成し直してやるッ!」


 素早く獲物を捕縛にいくと同時に、声を潜めながらも楽しげに進軍を開始する一団。


 そのまま山を駆け上っていくと、数十人単位の敵部隊が野営しているのが見えた。


 おそらく、敵はいくつかの部隊に分けて野営をしているのだろう。


 引きつけて一塊にするには――。


「マタ。奴らのど真ん中に、ド派手な目覚ましをぶち込んでやれ」


「……了解した」


 義兄の言うことならば基本的に何でも従うマタは、一切迷う事無く魔術杖に魔力を集中させ――派手な音と光が散らばる炸裂魔術をぶち込んだ。


 敵のテントは轟音と共に無残に散らばり、弾け飛んだ。


 『なんだなんだ!?』と敵の姿を探す野盗団に――。


「――くっせぇおっさんどもだな! 目に毒、ここまで匂う生ゴミ、空気が可哀想~、どうしたらそんなキモくなれるの、ねぇねぇどうしてなのぉ!? 全員弾け飛んだ方が環境の為なんだよぶぁあああああか共がぁああッ!」


 山中に響き渡るような大声で挑発するクズ。


 クズの姿を認めた野盗団は『敵襲だ』と武器を片手に一気呵成に駆け下りてくる。


 がん切れである。


「よっし、お前等、狭いところまで逃げんぞ! 敵の増援もガンガンくるだろうから引きつけろよっ!」


「相変わらずの言い様で、さすがにクズ君だねっ! 逆に素晴らしいよっ!」


「お褒めに預かり光栄だっ! お前らは殿で敵をぶっ叩けよ、うちの兵団から死者は出させねぇ!」


 山を大声で駆け下りながら逃げる失落の飛燕団、そして追う野盗団。


 別の場所で野営していた野盗団も続々合流してきて、約二百人に追い回される形となった。


「逃げるな卑怯者どもめ!」


 野盗団の一団が弓矢で斉射を射かけてくる。

 魔術師団もいるのか、魔術も飛んでくる。


 その行動を読んでいたとばかりにクズは――。


「テメェ等! サイクロプスの皮膚を拡げろ! 身を隠せ!」


「「「おうよ!」」」


 サイクロプスやキマイラの素材は丈夫で上質故に、加工も難しく時間がかかる。


 ――ならば、無加工で持ってくればいい。


 サイクロプスから剥いだ皮膚は、加工せずとも拡げるだけで矢など通さない。

 生半可な魔術では破れず、多少の衝撃を与えるのみだ。

 まさに天然物の強大な盾である。


「よし! 突っ込んできた槍兵や剣兵をぶっ飛ばして時間を稼げ!……あ、傷はつけんなよ。売値が下がるかんな」


「はっはっはー! お任せザムライっすよ!」


 皆喜び勇んで殿を務め――突出してきた敵兵の急所を突いて一撃で沈めていった。


「なんなんだこの戦はっ!?」


「楽しいだろ?」


「常識破りすぎだ!」


「俺さ、常識人を非常識っつう鞭でぶっ叩くのが趣味なんだよね」


「このクズがっ! このクズがぁあ!」


 走って逃げながらクズを罵るエド。


「――しゃあ、今だ! 錬成だぁあっ!」


 岩に手を突き、クズの手から魔力の奔流が流れ――ほぼ一直線に追ってきた敵野盗団二百名の足下と左右へ集中する。


「野郎共で臭い飯食ってろぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 左右から伸びてきた岩が格子を作り出して囲む。

 集団の足下には岩で出来た鋭い針山が広がった。


「な、なんじゃこりゃ!?」


「畜生! いってぇ! 針が刺さって迂闊に動けねぇっ!」


「この距離で……こんな大規模で精確な錬成術だとっ!? あいつ何者だ!?」


 野盗団が騒ぎ立てながらも、持っている武器や魔術で岩を破壊し脱出を図ろうとしている。


「マタッ! 今だっ! 気ん持ちいいのぶちまけろッ!」


「任せて。……這いつくばれ、薄汚れた野鼠ども。頭が高い」


 エロは大きな袋を針山へ放り投げ――袋が割れて中身の粉末が舞い散る。

 粉末が飛び出すのを見届けた瞬間、クズは針山を消し岩を檻のようにして閉じた。

 足下にごく僅かな換気口を残して――。


「よしよし、臭い物には蓋をってぇな」


「おい! クラウス! 何なんださっきの袋は!? こんな檻、岩を壊せばすぐ脱出されるだろう!?」


「まあまあ、慌てないで見てろよ。早漏の民ですか、お前は?」


「何を悠長な……っ。音が、止んだ?」


 岩で覆った当初は中で暴れ回る敵の雄叫びや魔術詠唱、岩と武器の衝突音が響いていた。


 だが――やがて一切の音がしなくなった。まるで、そこに人はいないかのような静寂だ。


「よし、錬成終了――と。元に戻れっ」


 錬成で変えてしまった地形を再度律儀に元に戻していく。


 するとそこには――。

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