2話


「夜襲だと?」


「練度の高い相手と正面から戦いたくねぇわ。各個撃破したところで、他の部隊に警戒されたら終わりだ。こっちは相手を把握してて、相手はこっちを知らない利点を活かす。本拠地に全員集まっている夜に――上手いこと敵を誘き寄せる。大勢を、なるべく狭い場所にが良いな。そこで殲滅だ」


「成る程。確かに、狭い足場で戦うなら数の不利を受けにくい。岩山なら背後に回られて囲まれることもない」


「ああ。なるべく細い道に大勢誘き寄せろ。あとは俺にいい作戦がある。――マタ、お前には後で個別に作戦を伝えるわ」


「……? わかった」


 なんだかんだ言いながらも、クズの作戦に幹部達は全員従っていく。


 これまでの依頼で失落の飛燕団は、極めて高い依頼成功率を叩き出している。


 その輝かしい戦果はクズの立てた作戦が概ね見事に嵌まったことに起因する結果なのだ。


 たまに嵌まらなくても、その時はクズがなんだかんだでフォローする。


 だからこそ幹部達は提案はしても、クズの作戦を根幹から否定することは殆ど無い。


 余程やる気が無い時を除けば。


「――あと、敵頭目との戦闘は俺一人でやる。……誰も手を出すな。近づくな。……絶対にだ」


 誰の目から見ても、今のクズはかつてない程にやる気――殺る気にも満ちていた。


 口を挟む必要も無く、挟める者など誰もいなかった。


 ――深夜。


 野盗団の本拠地である山へ乗り込み、捕縛――或いは討伐作戦を開始した。


「……見張りは四人、か」


 岩山の中でも見晴らしが良い高所に、野盗団の一味と思わしき男を発見した。


 決まった巡回ルートがあるのかと動きを観察してみると、規則だって巡回し周囲を警戒している四人の男が確認できた。

 他に見回りらしき者達の姿は見えない。


「ナルシスト、他の兵に見つからず無力化できるか?」


「殺すなら簡単だね。でも、捕らえるのは難しい。捕らえるのはいいのかい?」


「マタ」


「何?」


「持ってきた神経毒――気持ちよくて痺れちゃうお薬を渡してやれ」


「分かった。ナルシスト、矢を貸して」


「なるほど。ありがとうマタちゃん。君の作ってくれた即効性の痺れ薬を、敵の体内に注入するって作戦だね。僕ら二人の、共同作業だ」


「義兄さんの作戦だから三人。勝手に二人っきりにしないで。おぞましい。筋肉が感染する」


「そういう照れ屋な所も、また素敵だね」


「……マタ、ドンマイ」


「やる気と生命力が筋肉に吸い込まれて、消えていくのを感じる……」


「おらっ。準備出来たらナルシストはさっさと敵の動きを止めろ。他の奴は、巡回してる敵の動きが止まったら即捕縛にいくぞ。――いいか、ゼニーが転がっていると思え」


「ゼニー、つまり変換するとごはんっすね!」


「そういうことだ」


「任せてくれよ。僕が狙った獲物を外す訳がないだろう?」


 鏃に強力な痺れ薬をたっぷりと塗った矢をロングボウにつがえ、ギリギリと弓弦を引き絞る。


 強弓を引くナルシストの筋肉がミリミリと血管を浮かべている。


 押し手に矢を一本、口に矢を三本咥えているにも関わらず、ロングボウは微動だにせず敵を狙っている。

 ツーブロックの短髪の下に見える瞳がキラキラと一点を見つめ――。


「――この世には、二種類の男がいる。僕のロングボウに射貫いてもらえる男か、それ以外かだっ!」


 ――弓弦が震えて、矢が風を引き裂いていく。


「気持ち悪い」


 間髪入れずの速射。


「鳥肌が立つほど気持ち悪い」


 横で見ていたマタの暴言にも折れず曲がらず。


 放たれた四本の矢は吸い込まれるように敵の肩に命中し、音もなく敵の無力化に成功した。

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