第11話 ゴースト

「おつかれ〜、何してんの??」


講義前に合流して、彼の隣に座ると彼はスマホとにらめっこをしていた。


「いや、これ…。」


そう言いながら画面を見ると、小論文の作成画面だった。


「こんなん課題にあった??」


「いや、俺のとってる講義で…。」


「ああ、そういうこと。」


文章作成が苦手な人もいれば、得意な人もいる。それぞれの個性を伸ばすことが私の大学のポリシーで、彼は文章作成が苦手なことを自覚して履修登録をしていたようだ。


「なぎささんならどう書きますか?」


「これ、テーマは何?」


「自己紹介をする、です。」


「何文字?」


「400。」


自己紹介は簡単なように見えて、意外に難しく、自分のことを知るという工程を挟むため結構大変である。


加えて、自己紹介をどこまで自己をアピールしていいのかがアバウトに指定されていることもあり、400字にまとめると難しい。


しかし、彼のスマホを見るとある程度のものは出来上がっていた。

私はそこに肉付けをすれば400字は超えると感じた。


「よし、じゃあ今から言うのをパクるかいい感じにしなさい。」


肉を伝える私とそれを打ち込む彼。


まじめにスマホに向かう彼は、いつもゲームばかりしている視線と違い、少し大人のように見えた。


「…どう?ここまでで何文字?」


「350。」


「そう、じゃああとは校正して終わりだね。」


「殆どなぎささんの文ですよ。」


微笑みながらこちらに視線を向ける彼は、安堵の表情でいっぱいだった。


「役に立てたなら良いのよ。」


彼の表情はもっと和らいだ。

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禍々しい渦は棘に絡み合って 澪凪 @rena-0410

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