第10話 レーーーール

「おはようござ〜っ!え、なぎささんどうしたんですか!?」


私は色々な気持ちを逡巡して悩んでいたところだった。


彼は律儀に挨拶をしてくれたのに、驚かせてしまったようだ。


「どうもしないよ。おはよう。」


まるで元々席が決まっていたかのように座る彼。


「いやいや、どう考えてもなぎささんのいつもの笑顔じゃないですよ。」


「いつもの笑顔だよ〜。」


弱っている時に優しくされるのは怖くて苦しい。だから私は拒絶を表した。


「なぎささんは、笑う時に目尻がふにょってします。目が細くなって、こっちを向いてくれます。それに…。」


「やめて、もうやめて…。ごめん、君の言う通り。」


私は作り笑顔をやめて、机に突っ伏した。


彼は周りから私を隠すように座り方を変えてくれた。


「…ごめん…。」


「謝ることじゃないです。溜めてたんでしょ。」


私はいつも甘えてくる彼に対して、1mmくらいの甘えを出した。


「レールに敷かれる人生ってどう思う?」


私は潰されそうな声で伝えた。


「俺は嫌です。」


胸の奥がきゅっとなった。


「そうだよね。」


「敷かれたレールの上を走らない選択肢もあるっていつも言ってるのはなぎささんでしょ。」


「…そう…かもね。」


私は人には言えるのに自分には言えない。


「別に我慢しなくて良いんですよ、俺の前では。」


「…ありがとう。」


なんだか聞いたことのあるような言葉。


レールはくるくる回るような気がして。


レールのない彼はとても綺麗だった。

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